③
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気が付いたら、すべて事が済んでいた。
マンションの解約も、部屋の片付けも。
と言っても、可那子の私物はほとんど一八の部屋には来なかった。
「処分した」
その言葉に多少なりともショックを受けた可那子だったが、それでももともと捨てて困るような物は持っていない。
一八に連れて行かれた、何もかもが高そうな店で最低限必要な物は揃えることができたので、それ以上は何も考えないことにした。
仕事も辞めた。
ほとんどストーカーと化していたもと同僚は、どのようにしてかここをつきとめ、ビルまではやって来たらしい。
しかし一八のSPたちに追い払われ、その時どのようなことを言われたのかされたのかは分からなかったが、その後は話に聞くことも姿を見ることもなくなった。
一八の部屋はG社ビルの最上階にあり、その下の階は黒服やSPたちの待機室と彼らのための居住スペースとなっていた。
一八不在の時の有事のために、可那子は最上階以外ではこの階にのみ降りることを許されていた。
どちらにせよ、専用エレベーターではそこしか止まらないのだが。
多忙な一八は、部屋に戻らないことも多かった。
一八は可那子に自分の相手以外何もさせなかったため、可那子は暇にまかせてお菓子などを作っては普段世話になっている黒服やSPたちに振舞っていた。
自然、可那子は彼らと親しくなっていく。
そんな毎日の中でふと、黒服の一人が話してくれた。
「ご多忙なのは変わりませんが、一八様は以前よりよくお部屋に戻って来られるようになりましたよ」
その言葉に頬を染め、それだけのことでもただ幸せだった。
だが、ずっと気になっていた鉄拳トーナメントについては皆一様に口を閉ざした。
以前一八に訊いた時も、トーナメントは終わったとしか教えてくれなかった。
なので可那子はその時の一八の様子、そして黒服たちの反応から、世界にはもっと強い人間がいるのだろう、と思うに留めることにしたのだった。
そして知る、衝撃の事実――。
それは、一八が持つデビル因子について。
この先デビル化せざるを得ない状況になるかもしれないからと、一八自身が可那子に伝えた。
さすがにそれを聞いた時は驚きを隠せない様子ではあったが、
「俺が恐ろしいか」
そう訊いた一八に、しかし可那子は小さく首を振ってから答える。
「いいえ。何者であっても――…一八さんですから」
世界を相手に闘う、国籍を捨てた男。
そしてその男と共に在ることを選び、日常を捨てた女。
――二人の日々は静かに始まり、そして過ぎていった。
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