②
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それから一八はいつも通りシャワーを浴び、可那子と共に夕食を取った。
そして――
「さて、じゃあ聞かせてもらおうか」
そう言った一八は、ゆっくりとソファに体を沈めた。
グラスにブランデーを注いでいた可那子は、その手を止めて一八を見る。
「どうした、何か理由があるんだろう」
言いながら、グラスを受け取るために手を伸ばす。
「理由もなく来るなら、お前の場合理由がないことを先に告げるはずだからな」
可那子の性格をしっかりと把握した上で一八は続けた。
何も言わないのは、何かあったということだろう、と。
自分が弱いから断りきれないんだと思っていた可那子は、本当の理由を打ち明けることをためらっていた。
とその時、一八に向かって差し出したグラスを持った手の手首を掴まれた。
「話せ」
「一八さん…」
一八はグラスをもう片方の手で取り、掴んだ手首を引き寄せる。
逆らうこともできず、しかし可那子は一八の隣ではなくその足もとに小さく座った。
「実は――…」
意を決して話し始める。
同じ職場の男にしつこく交際を迫られていること、
アドレスを変えてもすぐ知られてしまい、拒否しても相手もアドレスを変えてくるので意味がないこと、
最近はマンションにも押しかけてくるようになってきたこと…
「恋人が…いる、ことも…ちゃんと言ったんですけど…」
どこか遠慮がちな口調の可那子の話を、一八は何も言わずに聞いていた。
そしておもむろに口を開く。
「ならばここに住め」
「えっ!?」
思いもよらない言葉に思わず大きな声が出る。
「ここなら関係ない人間は近寄ることすらできんからな」
慌てて口を手で押さえる可那子の耳に届く、一八の声。
「仕事は好きにしろ。だが、そんな奴がいる会社に行く必要もないし、お前の収入も特に必要ない」
「え…」
それはどう言う意味を持つのかと訊きたくなるような一八の言葉に、可那子は一八を見上げたまま言葉を失う。
「――…ああ、世間ではそういうことになるのか」
その様子に、何かに気付いた一八はぽつりと言う。
「生憎だが俺には国籍がない。お前が望むような…」
「いいんです、そんなこと」
そこまで聞いた可那子は、一八の言葉を遮った。
同時に涙があふれる。
「その言葉だけで十分です…」
そして涙を拭うために伸ばされた一八の手を握り、やわらかな笑みを浮かべた。
「一八さんのそばにいることだけが…私の望み、なんですから…」