⑥
夢小説設定
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重い瞼を持ち上げると、見慣れた天井が目に飛び込んでくる。
そのままゆっくりと首を動かすと、その視線は自分を見つめる紅い瞳にぶつかった。
「かずやさん…」
掠れた声でその瞳の持ち主を呼ぶ。
しかし一八は椅子に座ったまま動かず、手に持った携帯を操作し耳にあてた。
「すぐに来い」
ひと言だけ言うと携帯を無造作に放り投げる。
「失礼します」
直後、部屋の外に控えていたと思われる早さで誰かが入ってくる。
そちらに目をやると、白衣を着た初老の男が可那子に向かってにこりと笑った。
「先生…」
男は、G社に常駐しているドクターだった。
「気分はどうですか?」
訊ね、ドクターは瞳を覗いたり脈を測ったりと可那子の体の様子を調べていく。
「先生、私…?」
「あなたは一週間眠っていたんですよ」
不安げに訊ねた可那子にドクターは答え、
「ですから、食事は軽いものからです。後で用意させますね」
そう言ってまたにこりと笑う。
「すみません、ありがとうございます」
「とんでもありませんよ」
お礼を言う可那子にそう返したドクターは、それから、と一八を振り返る。
「一八様、可那子様はもう大丈夫ですから、一八様もどうか少しお休みいただけますよう」
椅子に座ったままの一八に向かってそう言うと、一八の返事は待たずぺこりと頭を下げ部屋を出て行った。
その後、部屋を支配した沈黙を破ったのは可那子だった。
先ほどのドクターの言葉が気になっていた。
「寝て、いないんですか…?」
「……」
可那子の問いかけに、しかし一八は可那子を見つめるばかりで答えない。
「ごめんなさい…」
「馬鹿野郎が」
「…っ」
低い、怒りを含んだ声が突き刺さる。
目をそらす可那子。
しかし続いた言葉にはっとする。
「あいつは…仁はいずれ決着を着けなければならん相手だ。お前がいようがいまいが…関係ない」
そう言った一八を見つめた可那子は、でも、と小さく呟いた。
そしてずっと寝ていたために軋む体を、まだ無理はするなという一八の制止も聞かずゆっくりと起こす。
薄れゆく意識の中で見た一八の…デビル化した一八の姿を思い出しながら、一八に支えられた可那子は言葉を続けた。
「でも、一八さんは…私を、助けてくれましたよね…?」
すると一八は呆れたように口を開く。
「自分の女が死んでいくのを黙って見ていればよかった、とでも言うつもりか?」
「――…!」
可那子は体をずらし、一八に向き直った。
見上げる瞳には涙が滲んでいる。
「一八さんは、私を…」
分かっているつもりでも、心のどこかでは不安だった。
一度だけでいい、訊いてみたかった。
可那子は震える唇を動かす。
そうであってほしいという願いを込めて。
「私を愛してくれていると…自惚れても、いいですか…?」
「好きにしろ。…今更だがな」
涙が頬を伝い、抱き寄せられた一八の胸に吸い込まれていく。
「ごめんなさい、一八さん…っ、ごめ、なさ…」
「謝るな。悪いのはお前じゃない」
泣きじゃくる可那子が落ち着くまで、一八は何も言わず抱きしめていた。
その後、泣き疲れた可那子の体をそっと横たえる。
「もう少し眠れ」
一八に言われるがままに、可那子は目を閉じ、体を丸めた。
あたたかくなった心の真ん中を、優しく抱きしめるように。
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