⑤
夢小説設定
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「風間、仁…」
可那子はうつ伏せのまま、その名を呟いた。
「あなたの…目的は何…?」
逃げ出す気力、体を起こす力さえも奪われた可那子が身じろぎすると、足かせに繋がった鎖が小さく音を立てた。
「三島一八のアキレス腱の確認」
ベッド脇に腰掛けた仁から返された言葉に、可那子はびくりと体を震わせた。
当然、分かっているつもりだった。
自分はこの男を知らないのだから。
だからこそ胸が締めつけられた。
可那子は何より一八に迷惑をかけることをこそ恐れていたから。
けれど同時に、一八が助けに来てくれるかもしれないという期待を抱く自分が疎ましかった。
合わせる顔などないというのに。
「一八さんは、来ない。全てを切り捨てられる人だから」
だから可那子は精一杯の虚勢を張る。
「一八さんとあなたがどういう関係か知らないけど」
「本当にそう思うのか?…それにあんたは、本当は来て欲しいと思っている」
「…っ」
図星を突かれ、言い返せない。
しかし仁は、それ以上踏み込んではこなかった。
「あいつは必ず来る」
「…どうして分かるの」
そう言い切る仁に問い返すと、仁は唇にだけ薄く笑みをのせた。
「簡単なことだ。あいつは、三島一八は俺の――…」
その時、一八の部屋と同じように総ガラス張りになっている壁が吹き飛んだ。
仁はその場から飛び退り、可那子は軋む体を跳ね起こす。
飛び散るガラス片、そこに立つひとつの影に、可那子は軽い既視感を憶えていた。
しかし直後、その表情が凍りつく。
「かずや、さん…」
自分のものじゃないような掠れた声が出る。
助けに来て欲しかったけど…会いたくなかった――
嬉しいのに、苦しい――
ごめんなさい、全てを切り捨てられる人だなんて思っているわけがない…!
でも、私なんかを助けに来ちゃいけないんです…
そう思うのに…心のどこかでは、こんなにも求めていた――…
ぶつかり合う感情が可那子を責め苛む。
どうしていいか…分からない。
一八が可那子に向き直った。
自分で自分の体を抱きしめ、怯えた瞳で一八を見る可那子。
しかし、目は合わなかった。
一八の視線は仁に掴まれアザになった手首に注がれ、可那子がそれに気付き慌てて隠した時には既に違う場所を見ていた。
可那子の胸もと。
一八は更に小さく縮こまろうとする可那子の手首を掴んで体を開かせる。
「や、だ…」
そこには仁が残した生々しい痕跡。
それが全てを物語る。
「見ないで、下さい…っ!」
顔をそらし懇願する可那子。
ギリ、と歯噛みした一八は手の力を緩めた。
可那子は手に触れたシーツを手繰り寄せ体に巻く。
可那子に背を向けた一八は、その足もとに伸びた鎖を力いっぱい踏みつけた。
可那子の足首に繋がるそれを断ち、仁に向けて吐き捨てる。
「貴様は――…ここで死ね」
その言葉を合図としたように、一八と仁が同時に足を踏み出した。
その体には、闘気がオーラとなって立ち昇る。
ぶつかり合う拳。
それに数瞬遅れて空気が爆ぜる。
「きゃあっ」
可那子の体はベッドごと吹き飛ばされた。
マットレスが衝撃を吸収してくれたため怪我はなかったが、吹き荒れる闘気の渦が可那子を翻弄した。
なす術もない可那子の目の前で、二人は死闘を繰り広げる。
ぶつかり合い、殴り合う。
頬が裂け、血が流れる。
殴り合いそれが飛び散っても、そんなことは気にも止めない。
可那子は顔を覆う。
いやだ、もうやめて。
一八さんを傷付けないで…
これ以上、傷付かないで――…
「―――…!!」
叫んでも、二人の耳には届かない。
しかし可那子はそのまま一八の飛び込んできた場所へと歩く。
それに気付いた一八が、渾身の力を込めて仁を蹴り飛ばした。
「護ってもらう資格なんてない…一八さんが傷付いていい理由なんて何一つないんです…!」
一八に向かって哀しげに笑んだ可那子の頬を、涙が伝う。
「だから…ごめんなさい、一八さん――…」
一八は目を見開いた。
ぞわり、全身の血が逆流するような感覚。
刹那。
可那子はためらいなく、その場所から身を投げた――。
「―――…っ!!」
直後、世界が紅く染まり…一八の中で何かが弾ける。
身中で頭をもたげたそれは、見る間に一八の外見を人ではないものに変えていく。
神々しくも禍々しくもあるオーラをまとったそれは、デビル因子の力でデビルと化したカズヤだった。
カズヤは可那子が身を投げた場所を見つめたまま何故か動きを止めた仁を一瞥し、その背に生えた滅紫の羽を大きく羽ばたかせた――。
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