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そこに足を踏み入れたのは、少しの好奇心からだった。
そこでは何が行われているんだろう…
ただそれだけの好奇心。
鉄拳トーナメント――。
世界中の力に覚えのある者が集い、三島財閥の覇権を手中に収めるために闘う。
蔵本可那子は、踏み入れたコロシアムの異様とも言える熱気に目眩にも似た感覚をおぼえながら、人ごみの中を歩く。
ようやく辿り着いたステージに目を向けた時、そこでは次の試合が始まるところだった。
「――…!!」
目にした瞬間、自分の意識が全て奪われるのが分かった。
激戦の歴史を物語るように散りばめられた傷跡。
それでもなお鍛えることをやめなかったであろう無駄のない筋肉に包まれた体は、ビロードの毛皮を持つ美しい獣を彷彿とさせた。
全神経が支配される。
――その男によって。
経験などないはずの体、その奥がずくりと疼くのを可那子は感じた。
鋭い光を放つ瞳は左目だけ紅く…口もとには相手を蔑むような不敵な笑み。
目が離せない。
獣はしなやかに躍動する。
そして筋肉という武器のみで対戦相手を瞬殺し、準備運動にもならないと言いたげにステージから去って行く。
三島一八――。
その名が、勝者として高らかにコールされた。
可那子はふらりとその場を離れた。
向かった先は選手控え室棟。
人でごった返すそこに潜り込むことは、難しくなかった。
個人ごとに与えられた部屋の中から、目的の場所を探して歩く。
そしてようやく見つけたその部屋の前でノックしかけた手を止め、考える。
なんと声をかけたものかと。
しかしその逡巡は長くは続かない。
「誰だ」
部屋の中から響いた低い声に、可那子の手がびくりと震える。
しかし、今の可那子の中に逃げ出すという選択肢はなかった。
ひとつ深呼吸をし、ゆっくりとドアノブを回す。
そこに立っていたのはまさしく、自分を一瞬にして虜にした男――三島一八だった。
間近で感じる威圧感は、会場でのそれを遥かに上回っていた。
「何者だ」
そうしてまとった空気をそのままに、一八がもう一度問いかけてくる。
「私、蔵本可那子と言います」
しかし可那子は怯まない。
「さっきの試合を観て、…あなたが欲しくなりました」
「そうか」
誤魔化すこともなくストレートに気持ちを告げた可那子に対し、一八はふ、と笑った。
ただその笑みは決して、突然現れた目の前の人間を信じた笑みではなかった。
しかし一八はそのまま歩き出す。
「ついて来い」
部屋の入り口に立つ可那子の横をすり抜けざまそう言って、控え室を後にした。
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