無理してたのは
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「キスしてください、虎次郎さん…」
何度目かのデートの時、あたしは勇気を出して虎次郎さんにお願いした。
あの日、あのサバイバル生活の中…悪夢を見なくなるおまじないにと、おでこにキスしてくれた虎次郎さん。
あれから、デートの別れ際にはおやすみの言葉と優しい笑顔とおでこにキス。
不満なわけじゃない。
だけど、もう少し欲張ってみたいって思っても…いいよね?
祈るような気持ちで口にした望み。
「うん」
少しの間の後小さく答えた虎次郎さんは、俯くあたしのやっぱりおでこにキスを落とした。
「…っ」
勇気を出して言ったのに…。
でも、虎次郎さんが悪いわけじゃない。
これだってキスだから。
間違ってない。
ないけど…!
ただなんだか哀しくて、涙があふれた。
「…もう、いいです」
「可那子ちゃん…?」
あたしは涙を見られないように俯いたまま、踵を返して走り出した。
「待って!ごめん…!」
「やだ…っ」
だけどすぐに追い付かれて、腕を掴まれる。
逸らした顔に手を添えられて、強引に向かい合わせにさせられると同時に近付く虎次郎さんの顔。
「無理してしてくれなくていいです、…っ!」
抵抗しようとした唇をふさがれた。
間髪入れず滑り込んでくる舌に自分のそれを絡め取られ、抗うすべを失ったあたしはただされるがままにそれを受け入れることしかできなかった。
やがてわずかに距離をとった唇は、もう一度あたしの唇をついばんだ後ゆっくりと離れていった。
「虎次郎、さん…」
ようやくちゃんとした呼吸をゆるされ、あたしは小さく息を吐いた。
「ごめん…」
虎次郎さんはもう一度謝って、あたしを抱きしめた。
「無理してたのは、我慢する方だったんだ…」
ためらいがちに続けられたこの言葉の意味を理解するまで、数秒。
「我慢…してたんですか?」
あたしは驚いて、虎次郎さんの腕の中で顔を上げた。
「…かなりね」
あたしの視線を受けて、虎次郎さんは困ったように笑う。
「止まらなくなっちゃうからね…こんな風に」
言うと同時に、また触れるだけのキスをされた。
「虎次郎さ…っ」
そして強く抱きしめられる。
「キミが本当に好きなんだ。なのに、大事にしたいと思う反面、全てを奪いたくもなる…」
虎次郎さんは、あたしの頭に頬を乗せた。
「だから我慢してたのに…まったく、キミのせいだよ?」
「すみません…。でも嬉しいです、虎次郎さんの気持ち…」
あたしは虎次郎さんの背中にそっと腕を回した。
「奪ってください…全部」
「可那子ちゃん…」
優しくあたしの名前を呼ぶその声で、本当にあたしを大事に思ってくれてるのが分かったから…
「それとも、他の誰かに奪われちゃった方がいいですか…?」
なんて、ちょっといたずらっぽく聞いてみる。
「それだけはありえないよ。キミは誰にも渡さないからね」
少し慌て気味に返された答えに、嬉しくて自然と笑みがこぼれてしまう。
包まれたままの腕の中で身じろぎしたあたしは、精一杯背伸びして虎次郎さんの首に腕を回した。
「大好きです、虎次郎さん」
「うん、俺も大好きだよ…」
それに合わせて虎次郎さんが身を屈めてくれたから、当然のように近付いた唇を――
あたしたちは、自然に重ねた…。
「じゃあ行こうか」
「え、どこへ…」
「俺の家。今日は帰さないから、覚悟しといてね…?」
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