不器用な恋心
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「浮竹隊長!」
恋次がその人の名前を呼ぶ。
「やあ、君たちも来てたのか」
恋次と可那子に気付いた浮竹は、ふたりに笑顔を向けた。
そして
「…何をしに来た、浮竹」
と問いかけた白哉の不機嫌そうな様子など気にもせず
「何をって…今日はお前の誕生日じゃないか!おめでとう白哉!これは俺からのプレゼントだ」
言いながら浮竹は、白い布のかけられた大きな何かを襖の陰から取り出した。
よいしょ、と重そうな仕草で、それを白哉の近くまで運ぶ。
「…何だ、これは」
訝しげに問いながら立ち上がると、白哉はその白い布を取り去った。
「…!」
白哉は目を見開き、
「…すごい…」
可那子は感嘆の声を漏らした。
浮竹の持ってきたそれは、ほぼ等身大の、妙にリアルな白哉のフィギュアだった。
「この間、日番谷隊長にもプレゼントしたんだ!どうだ、良くできているだろう」
誇らしげに言う浮竹。
「…千本桜」
しかし、目にも止まらない速さで抜かれた白哉の斬魄刀は、次の瞬間にはそれを砕いていた。
この場の雰囲気に全くそぐわない浮竹の爽やかさは、白哉のイライラに油を注いでしまったらしい。
「ああっ!なんてことするんだ!」
自分のあげたプレセントを目の前で壊されさすがにショックを受けた様子だったが、
「ま、いいさ。技術開発局にデータは残ってるだろうから、また作ってもらうよ」
浮竹は、めげない男だった。
「…いらぬ」
「そう言うなって。じゃあまた来るよ」
「くどい!…待て、浮竹…!」
白哉の拒否もなんのその、浮竹はここにやってきた時と同じように笑顔で帰って行ってしまった。
「……」
深いため息を吐く白哉。
「たーいちょ」
そんな白哉の顔を覗き込むようにしながら、可那子が白哉を呼んだ。
白哉の表情がぴくりと強張るが、
「これ、びゃっくん人形です。浮竹隊長とかぶっちゃいましたけどこれも意外とよくできているでしょう?」
そんなことは気にもしない可那子が手提げから取り出したのは、かわいらしくデフォルメされた白哉のぬいぐるみだった。
「女性死神協会のみなさんにも好評でプレゼントしたんですけど…自信作です!ちなみに命名してくれたのは草鹿会長ですよ」
白哉の表情が、さらに強張った。
「あと…」
そんな白哉は完全スルーで、可那子は再び手提げに手を突っ込んだ。
「まだあんのか!」
恋次が横から突っ込む。
そんな恋次も完全スルーで、
「これ、どうぞ」
干した小魚が大量に入った袋を白哉に手渡した。
「これは何だ」
「この魚にはカルシウムという栄養がいっぱい入っててですね、イライラを解消してくれるんですって。ほら隊長、いつも眉間にしわ寄せてるから…効果、あるかなと」
その大体の原因が自分だということなど夢にも思っていない可那子は、真剣な表情で話す。
その時静かに瞳を伏せた白哉の雰囲気が、はらはらしながらことの成り行きを見ていた恋次には、奥義の前の精神統一に感じられて仕方なかった。
そして恋次のその読みは当たっていた。
「余程その命…要らぬと見える」
白哉が小さく呟く。
恋次がはっと気付いた時には、白哉の斬魄刀はその姿を消していた。
「…卍、解」
白哉の声と同時に、
「しっつれいしましたっ!!!」
「ちょ、恋次っ離して…っ」
恋次は可那子を脇に抱え、一目散に逃げ出していた。
「お前は…っ、俺も一緒に殺す気かっ!!」
「大丈夫だよぉ、隊長ああ見えて、そんな怒ってないよ?ほんとに殺したりしない…」
白哉に卍解まで使わせようとした張本人が、飄々と言う。
「んなこと言ってんじゃねぇ!」
恋次にだって、白哉が本気じゃないのなんか分かりきっていた。
「お前は明日非番だけど、俺は明日隊長と顔合わせるんだぞ?」
「平気平気」
しかし可那子は、何を言っても全く動じない。
「――…」
恋次はまだ文句を言い足りなかったが、それを無理やり溜め息に変えて吐き出し
「全くこの天然め…帰るぞ!」
呆れたようにそう言うと歩き出した。
「あーあ、結局渡せなかったな」
その後方で可那子は、懐から手のひらに収まるくらいの何かを取り出した。
ぽん、と放ってキャッチすると同時に瞬歩で恋次に追い付くと、
「恋次、これあげる。もういらないから」
恋次の手にそれを握らせ、
「じゃね」
「お、おい…可那子?」
次の瞬間に、可那子は姿を消していた。
恋次は自分の手に握らされたものを見て
「何だこれ…可那子のやつ、こんな大事なもん渡さなかったのかよ…」
そう呟き、可那子の帰って行ったであろう方角を見遣った。
恋次の手に残されたのは、桜の花を模して作られた美しい桜色の根付けだった――。
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