Special Birthday
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふたりきりになってしまって、俺たちの間には沈黙だけが残された。
と言っても、可那子先輩は俺が今何を考えてるかなんて知らないだろう。
というかそもそも、チョコをあげないっていう宍戸さんとの会話を俺が聞いていたことも、それなのに先輩がチョコらしきものを持っているのを俺が見たことも、たぶん知らない。
なのになんとなく気まずくて、俺は気付かないうちに早足になっていた。
「長太郎」
だから、ずいぶん遠くからそう呼ばれた気がして。
だけど振り返ってみたらそんなに距離はなくて。
「これ、よかったら受け取ってくれない?」
可那子先輩がそう言って差し出したものが、昼間先輩が抱えていたそれだと気付くのに時間はかからなかった。
「…でも、誰にもあげないって…」
なのにそれが信じられなかった俺は、言わなくていいことを口走ってしまった。
すると先輩は
「あ、やっぱ聞こえちゃってたね…。話題出してからヤバいなとは思ったんだけど」
そう言いながら少し困ったように笑った後、
「本命ひとりにしかあげるつもりなかったの。大切な想いだったから…伝えるなら、まず本人に言いたくて」
とはにかんだ。
めまいがした――…わきあがる愛しさで。
「本当は一度教室まで…って、こら、長太郎?」
気が付いたら、抱きしめていた。
先輩の声が怒っていないことに安堵しながら。
「すいません、嬉しいです…ありがとうございます」
俺がつぶやくと、先輩が顔を上げた。
「中に手紙入れといたんだけど…返事、もうもらえちゃったのかな?」
「それは、俺を好きっていう手紙ですか?」
と俺が訊いたら、先輩は顔を真っ赤にしながら
「そんなストレートに聞かないでよっ」
とうつむいて、俺の胸に額をぶつけた。
「でも、そんな感じ…」
とつぶやいた声が消え入りそうに小さくて、俺はふと思った。
俺を呼んだ可那子先輩の声が遠くに聞こえたのは、ただ先輩の声が小さかったからで。
その理由は――…なんて、考えるだけ野暮ってもので。
俺はただ、先輩をまた強く抱きしめた。
「これも手紙に書いたんだけど…」
しばらくそのままでいたら、先輩がぽつりとつぶやいた。
「何ですか?」
腕の力を緩めると、
「ハッピーバースデー、長太郎」
小さく笑った先輩が嬉しい言葉をくれた。
「ありがとうございます…先、輩?」
だけど、その表情はすぐに曇った。
俺は先輩の顔を覗き込む。
「プレゼント、一緒くたにしちゃってごめん…」
その言葉に、嬉しくて笑みがこぼれる。
だったら――…と、俺は考えた。
「せーんぱい」
先輩の肩に手を置いて視線の高さを合わせると、先輩も顔を上げ、俺を見つめてくる。
「先輩は俺のこと、好きですか?」
「…うん」
単刀直入な質問に先輩は恥ずかしそうに、でもしっかりと頷いてくれた。
だけどそれじゃ満足できないな。
「それ、先輩の言葉で教えて下さい」
俺がそう言うと先輩はますます恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めたけど、
「っ、好き…だよ、ちょた…」
って答えてくれたから、俺はもう一度、先輩を強く抱きしめた。
「それが、最高の誕生日プレゼントです」
先輩の腕が背中に回されるのを感じながら、俺は先輩の耳もとで囁く。
「俺も大好きです、可那子さん…」
(12,2,14)
2/2ページ