声に出して
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「ジロちゃんっ」
改札の向こう、階段を駆け下りてくるジロちゃんをあたしは見つけた。
「可那子、ちゃん…」
それに気付いたジロちゃんは、一瞬歩をゆるめた後、更に慌てて改札を抜けて来た。
「ジロちゃ…」
「なんで!泣いてたって丸井くんがメール…」
あたしが駆け寄ると、すごく焦った様子で、でも真剣にそう聞いてきた。
だからあたしも、今の自分の気持ちをしっかりと口にする。
「ごめんね、泣いてたっていうのはブン太くんの勘違い。でも…ジロちゃんのことで、ちょっとだけ悩んでたのは…ほんと」
それを聞いたジロちゃんの表情は更に真剣なものになる。
「話がしたいの…いい?」
あたしがそう言うと、
「うん、じゃあ場所を変えようか」
答えたジロちゃんはいつもより強くあたしの手を握って歩き出した。
夕暮れの公園には人影はなかった。
ベンチに並んで座ると、沈黙がその場を支配する。
ジロちゃんはつないだ手を離さなかった。
「話って…なに?」
その手を少し強く握り直したジロちゃんが沈黙を破る。
「うん…あのね」
だからあたしもその手を握り返して口を開いた。
つないだ手のぬくもりが、あたしに勇気をくれるみたいだったから。
「…あたし、これからもジロちゃんと付き合っていきたいの」
「…えっ!?」
「え?」
何故かすごく驚いて聞き返されて、あたしも思わず聞き返しちゃった。
「今、なんて?」
上半身まるごとあたしの方に向き直ったジロちゃんにもう一度聞き返されて、だからあたしもジロちゃんの方に体を向けて、もう一度自分の気持ちを伝えた。
「あたし、ジロちゃんが好き。だから…これからもずっと、本気で付き合っていきたいの。でも、だから…ジロちゃんの気持ち…分からなくて、不安で…、ジロ、ちゃん…?」
その時、あたしの体はジロちゃんに強く抱きしめられていた。
「よかった…」
ジロちゃんの安心したような声が耳に届く。
「いつも全然会えなくてさみしい思いさせてたから、もう別れようって言われるかと…」
「!…そんなこと…っ」
あたしはジロちゃんの腕の中で身じろぎした。
「うん…」
小さく頷いたジロちゃんは、あたしの髪をなでながら自分の気持ちを教えてくれた。
「俺はとっくにそのつもり…本気で付き合ってるつもりだったよ。でも、ちゃんと言葉にしなきゃいけなかったね。…不安にさせてごめん。好きだよ、可那子ちゃん…」
「ありがと、ジロちゃん…あたしも、大好き」
あたしは、ジロちゃんの胸に額をすり寄せた。
ジロちゃんはあたしをもう一度しっかりと抱きしめてくれた後、ふとその腕をゆるめた。
ジロちゃんのあたたかい手が、あたしの髪をなでて、頬に触れる。
見上げたあたしに、ジロちゃんは優しい優しいキスをくれた。
「改めて…これからも、よろしく」
あたしの肩を抱き寄せて、少し照れくさそうにジロちゃんが言う。
だからあたしは、そんなジロちゃんに体を預けて、答えた。
「うん、ずっと…一緒にいようね――…」
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