離れても迷わない
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ぼんやりした視界の隅で自分の乱れた衣服を直していた跡部は、ソファに横たわったままのあたしの体をそっと抱き起こした。
あたしは俯いたまま、跡部と目を合わせなかった。
跡部の腕を払い、やっとの思いでだるい体を動かしながら自分で制服を整えた。
跡部はそれを黙って見ていたみたいだったけど、
「…可那子」
ふらりと立ち上がったあたしが部屋の出口に向かった時、ふいに口を開いた。
「…何も言わないで」
あたしは必死に、声が震えないように気を付けながら、それだけを絞り出した。
「俺じゃねぇ、お前だ!俺に言いてぇことがあるだろう!」
跡部の言葉に小さく首を振り、あたしはドアノブに手をかける。
と、同時だった。
「蔑むんでも…罵るんでもいい!何か言ってくれ、頼むから…!」
あたしの体は、跡部の腕にきつく抱きしめられていた。
いつもの跡部からは想像もできないような声、そして言葉。
同時に跡部の切なく苦しい感情があたしの中に流れ込んできて…、もう、限界だった。
一気に涙があふれ、ぱたぱたと落ちていく。
跡部の腕にもそれは落ちた。
「…っ!」
一瞬息を呑む気配が伝わってきた後、あたしの頬に手を添えながら、跡部はあたしの体を反転させた。
あたしはそれに抗えず…同時にその澄んだ瞳に視線を絡めとられてしまって、目を逸らすことができない。
「その涙の…理由はなんだ」
あふれて止まらない涙は、あたしの涙を拭ってくれる跡部の手を更に濡らした。
「…すき…」
あたしの口から、もう自分ではどうしようもない、抑えきれない跡部への想いがこぼれ落ちた。
「跡部が、好き…。ごめんね、でも…」
驚いて目を見開く跡部の、あたしの頬に添えた手に手を重ねる。
「跡部が好きなの…っ!」
叫ぶと同時に、体を強く引かれ唇をふさがれた。
頬にあった腕で後頭部を押さえられ、もう片方の腕で強く抱きしめられる。
「ふ…っん、んぅ…は、ぁ…」
跡部の熱い舌に、舌を絡めとられる。
息もできないほどの激しい口づけに、あたしは跡部にしがみつきながら必死に応えた。
けれど…
「ま…って跡、部…っ」
跡部のキスに翻弄されて、もう立っていられない。
それに気付いた跡部は
「待たねぇ…だろ、あん?」
わずかに離れた位置でそう言うと不敵に笑い、
「俺様のものだって分かったからには、もう遠慮しねぇ」
言いながら、あたしを抱き寄せ首すじに舌を這わせてくる。
「あ、や…っ、もうっ、今までだって、遠慮なんてしなかったくせに…っ」
ぞくりとした快感に抗うように、無駄な行為なのは百も承知であたしは抗議の声を上げてみる。
だけど跡部は、あたしの言葉に動きを止めた。
「跡部…?」
そして、名前を呼んだら、強く抱きしめられた。
「…無理強いしたことは…悪かったと思ってる。まぁ元はと言えばお前が素直じゃないのが悪いんだがな」
「……」
微妙に高飛車な感じが気になるけど、たぶんきっと、それは跡部なりの照れ隠し。
涙はいつの間にか止まってた。
いつもと違う跡部も愛しいと思うけど、俺様な跡部もやっぱり大好きだから。
あたしはありったけの想いをこめて、跡部を抱きしめ返した。
すると跡部の腕の力が少し緩められて、ふと顔を上げたあたしを優しく澄んだ瞳が見つめていた。
その瞳に吸い寄せられるようにあたしは跡部の背中をきゅっと握り、精一杯背伸びをした。
その後、あたしは跡部を拒み続けた理由を話した。
俺様に遠距離は無理だと言いてぇのか、と怒られ
俺様を誰だと思ってやがる、と怒られた。
そして跡部は、それに…とため息混じりに続けた。
「俺様が好きなのは他の誰でもねぇ、お前なんだ。だから、余計な心配してんじゃねぇよ」
「…ごめん」
跡部の言葉に頬が熱くなるのを感じながら、あたしは素直に謝った。
すると跡部は
「ま、将来のためには色々な人生経験も必要だからな。しかし会いたくなったらいつでも言え、俺様が会いに行ってやる」
いつもの不敵な笑みを浮かべながら、あたしの髪をくしゃりとなでた。
「それにな、将来一緒にいられるようにする方法なんざいくらでもあるんだからな」
あたしの不安を取り除いてくれるかのようにそう続けると、その胸に優しく包み込んでくれた。
もうすぐ、離ればなれ。
だけどこの心にはもう、迷いはなかった――。
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