涙
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「そうそう、それでね」
「蓮二くん、可那子」
「ああ、つぐみ。用事はもう済んだのか?じゃあ帰ろう。可那子、またな」
「バイバイ、可那子」
「うん、また明日」
放課後、職員室に用事があるというつぐみを待つ蓮二に、少しだけ付き合ってお喋りをしていた。
そこにつぐみが戻って来て、蓮二とふたり帰って行く。
つぐみはあたしの親友で、蓮二は彼がうちの近所に引っ越して来てからの幼なじみ。
長身の蓮二の隣に、やっぱり長身のつぐみはとてもよく似合う。
どんなに頑張っても、あたしにはかなわない。
届かない。
あたしは蓮二が好き。
小さい頃からずっと、それは変わることはなくて。
ずっと変わることなく仲の良かったあたしたち。
あたしは、もしかしたら蓮二も…なんて甘い幻想を抱いていた。
――そう、あたしの大好きな幼なじみは、あたしの親友と付き合っている。
幻想は砕かれた。
けれどあたしは蓮二からもつぐみからも離れることはできなくて。
自分の気持ちをごまかしたまま、日々を過ごしていた。
そんなある日、つぐみから届いた一通のメール。
『蓮二くんと、別れるかもしれない…』
心臓が大きく脈打った。
携帯を持つ手が震える。
あたしの胸に浮かんだのは、小さな期待。
それに気付いて湧き上がる自己嫌悪。
あたし、最低だ。
親友の心配より自分の気持ちを優先した…!
だって考えてもみなよ、つぐみが蓮二と別れたとして、蓮二の気持ちがあたしに向くとは限らないじゃない。
でもそんなの、別れてみないと分からないでしょ…?
まだつぐみと蓮二が別れたわけでもないのに、あたしの、自分のためにしか働かないあたしのずるい頭には、自分に都合のいいことばっかり浮かんでくる。
別れてほしいの?
親友と幼なじみの悲しい顔を見たいの?
やっぱりそれはイヤなの?
万が一ふたりが別れたとして、蓮二の心を手に入れられるの?
万が一蓮二の心があたしの方へ向いたとして、それまで蓮二と付き合ってた親友の前で付き合えるの?
分からない分からない分からない…!
ううん…嘘、本当は分かってる。
――…そう、あたしは、蓮二が好き…!
あたしは家を飛び出した。
蓮二の家はすぐ近く。
「蓮二、つぐみからメール来たんだけど…どうしたの?何があったの?」
汚い、あたし。
心配しているふりをする。
「…可那子か。ああ…ちょっとな。だが大したことじゃないんだ、心配かけてすまない」
大したことない顔じゃない。
頭が良くて、取り乱すとこなんて見たことないってくらいいつも冷静なのに。
…長身の蓮二が、大きいはずの体がとても小さく見えて。
ここに来てなお、あたしは分からなくなっていた。
別れを決意して欲しいのか、別れる気なんてないと言って欲しいのか。
蓮二が言うのなら仕方ないと、ずるいあたしの心への唯一の救いとして。
それなのに、これはないよ。
あたしの知らない、弱い蓮二。
つぐみの前なら、そんな蓮二も見せたりするの?
いやだいやだいやだ。
そんな蓮二なんて見たくない!
見たくない!
見せないで!!
でないと、でないとあたし…!
あたしの体は、椅子に座る蓮二の体を抱きしめていた。
心が、暴走する。
「可那子…」
「蓮二…蓮二、あたし蓮二のこと…っ」
抑えられない想いが口をついた。
だけどそれは、中途半端に。
「それ以上は言うな…!」
蓮二の強い口調に阻まれて、最後までは言わせてもらえなかった。
「蓮二…」
「知っていた…いや、そうでないかと思ってはいた」
あたしの腕をそっとほどきながら、蓮二は振り返ってあたしをまっすぐに見た。
気付いて…たんだ。
じゃあ、ここに来たあたしの本当の望みも…?
蓮二の唇が動く。
だが、すまない…と。
「…すまない、お前の気持ちには応えてやれない。俺にはどうしてもあいつの…つぐみのことしか考えられないんだ」
どこか遠くで響く、蓮二の声。
やっぱりあたしには届かない…どこか遠くで。
「――…」
なのに、空っぽになった体は蓮二に抱きしめられていた。
優しく、強い…それは全てを包み込んでくれる、幼なじみの、ハグ。
泣くな…!
蓮二の前では、絶対に…!
あたしは必死に自分に言い聞かせていた。
蓮二のぬくもりと、でも、ありがとう…という言葉に、蓮二の優しさと残酷さを感じながら。
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