君の名を呼ぶ
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「そろそろ教えてくれない?」
週番の柳生が日誌を書いてる机の前に立って、あたしは切り出した。
「何をですか?」
日誌を書く手を止めた柳生が、顔を上げる。
「柳生の片想い歴」
単刀直入に言うと、ああ、と思い出したようにつぶやいて
「あれはご想像にお任せしますと言いましたよね」
と困ったように続けた。
「だって気になるんだもん!まさかほんとにあの日の3日前とか?」
じたばたするあたしを見ながら柳生は、仕方ありませんね…と小さくため息をついた後
「まぁ前向きに考えて、あなたが私に興味を持ってくれていることを喜んでおきましょうか」
と笑みを浮かべた。
「…っ」
その言葉に頬が熱くなるのを感じていたら、柳生がぽつりと呟いた。
「初恋なんですよ」
「…いつから?」
らしいのか意外なのかよく分かんないな、なんて思いながら問い返す。
「…あなたが転校してきた時からです」
答える声が心なしか小さくなった気がする。
「それって…小学校2年の時だよ?」
あたしは、あたしたちの出会いを思い出しながらもう一度問い返した。
「ですから」
柳生はくしゃりと前髪をかき上げた。
普段あまり見せない仕草に、場違いながらどきっとする。
「言ったでしょう?ひかれたくないので黙っておきますと」
困ったような照れたような口調と表情に、胸の奥から愛しさがこみ上げる。
きっと他の誰も見ることは叶わない、紳士柳生のポーカーフェイスが崩れた瞬間。
「ひかないよ。好きって言われて喜びこそすれ、ひく理由なんてない」
あたしはそう答えて笑って見せた。
でも…
「でも、ごめん。あたしずっと柳生のこと傷付けてきた…」
柳生はどんな気持ちで見ていたんだろう。
最近だって…あたしには他に彼氏がいたんだから。
俯いたあたしの手が、柳生の手に包まれる。
「そんなことは気にしなくていいんですよ」
耳に届いたのは、いつもの甘い柳生の声。
握った手を引かれ、あたしは彼の膝に横向きに座らされた。
「いつか手に入れてみせると、勝手に片想いを続けてきたのは私なんですから」
言って、優しく笑む。
あたしは素直に嬉しかった。
ずっと気になってたことの答え、それも自分の期待した以上の答えを聞けたんだから。
「じゃあその片想いも…8年目でやっと、実を結んだってことだね」
あたしは柳生の首に抱きついた。
「可那子…?」
柳生の腕が遠慮がちにあたしの体に回される。
あたしは体を起こし、柳生と向き合った。
「好きだよ。――比呂士…」
あふれ出す想いをこめてそう伝えたら、
「ありがとう、ございます――…」
と、強く抱きしめられた。
どちらからともなく唇を重ねる。
熱い頬にひやりとした眼鏡の感触が気持ちいい。
湧きあがる愛しさに体中を支配されながら想う。
あたしは今日から、彼のもの――…。
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