サプライズ
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11月19日。
「た、誕生日おめでとうっ!今日、なんだよね?これ…っ」
「いえ、私の誕生日は1カ月前…10月19日ですが…」
あたしの精一杯の勇気は、この数秒で砕け散った。
緊張の糸がぷっつり切れて、その場にへたり込む。
「騙された…」
「仁王くん、ですね」
あたしの微かな呟きに、誕生日を1カ月間違われた紳士は困ったようにため息をつきながら、あたしに手を差し伸べてくれた。
そうか、こういうこと=仁王だと、柳生の中では公式になってるのか…なんてテニス部最強ペアの片割れ、あたしを騙した張本人の顔を思い出しながら、あたしはありがたくその手を取った。
「…ごめん」
「何故謝るのですか?」
たぶん書きかけだった日誌をぱたんと閉じた柳生は、助け起こされて立ち上がったあたしを見上げて不思議そうに聞いてきた。
「だって、柳生が生まれた日を間違えた…」
「仁王くんに騙されてしまったのでしょう?」
あたしをフォローしてくれる、優しい声。
「でも、あたしの聞き間違いかもしれないし…」
「じゅうがつとじゅういちがつは、結構違いますよ?」
庇われると、ますます自己嫌悪に陥ってしまう。
「でも、それでも、あたしにとってこの日はとても大切な日だったの…」
そう、それでも今は、誰が悪いとか関係なくて。
あたしは、柳生の誕生日―間違いではあったけれど―に向けて準備して来た言葉を、さっき砕けた勇気の欠片をかき集めて…絞り出した。
「――あたし、柳生が好き…」
その後の柳生は、まさしく百面相だった。
ああ、と何かを納得した表情を浮かべたと思ったら、仕方のない人ですね、と呟いて苦笑い。
だけどその後
「でも今回は、素直に感謝しておきましょうか」
と、優しく笑った。
そんな風にひとりで何かを完結してしまった柳生は、おもむろにあたしを見た。
「すみません、ひとりにしてしまって」
どうやら自分の世界に入っていたことに気が付いたらしい柳生は、申し訳なさそうに言いながら立ち上がった。
そして大してずれてもいない眼鏡を押し上げ小さく咳払いした後、あたしの想いに対する答えをくれた。
「ありがとうございます。私も、蔵本さんが好きですよ」
耳に届いた柳生の言葉に驚いて、自分で聞いたはずなのに信じられなくて、自分が泣いてるなんて気付かないまま、あたしは柳生に抱きしめられていた。
あたしが落ち着きを取り戻すまで、柳生は何も言わず待ってくれて。
そして教えてくれた。
1年の時同じクラスになった時から仲が良かった仁王に柳生のことを相談したわけだから、当然あたしたちはそれ以外の何気ないお喋りなんかもよくしていた。
そんなあたしたちを見て柳生は、あたしと仁王が付き合ってると思っていたってこと。
1カ月前の本当の誕生日の日、
「俺のプレゼントは1ヶ月後に届くから、楽しみに待つぜよ」
と言われていたこと。
仁王に騙されたあたしが柳生に告白したことで、ようやく仁王の言葉の意味が理解できたこと…。
「さすが仁王くん…私の気持ちも全てお見通しだったわけですね」
そう言って笑った柳生の照れたような笑顔に、あたしは完全にKOされたんだ。
そう…全てはあたしまで巻き込んだ、あたしの想いを知った上で柳生の気持ちに気付いていた仁王の、バースデーサプライズだったってこと。
「どうかしましたか?可那子…ああ、それは…」
比呂士の部屋。
あの時プレゼントしたシャーペンをくるくる回しながらそんなことを思い出した――
比呂士の誕生日+1カ月、あたしたちが付き合い出して1年目の…記念日。
(11,11,19)
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