甘くて甘い誕生日
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「37度8分。残念だけど、今日は学校お休みね」
「やだ、行けるよ!大丈夫!」
朝起きて頭が痛いと訴えたあたしの熱を測ってくれたお母さんが、あたしにその表示を見せながら言う。
頭は痛むけど、それでもあたしは学校へ行くと言い張った。
だって今日は大好きな彼氏、ブン太の誕生日なんだもん!
家族を巻き込んで、バースデーケーキめっちゃ練習したんだもん!
何の変哲もないイチゴのデコレーションケーキだけど、クッキーもまともに作れなかったあたしがちゃんとひとりで完成させたのに…。
「気持ちはすごく分かるけど、今日は我慢。お友達にうつしちゃってもイヤでしょ?」
もう当分ケーキなんて見たくもないだろうお母さんが、あたしの頭を撫でながら言う。
結局あたしには、しぶしぶ頷くことしかできなかった。
熱でぼんやりした頭でブン太のことを考えたり、そのまま眠ったり、時々お母さんが氷枕を換えてくれたりしてるうちに時間は過ぎていく。
ブン太…今頃は部活、頑張ってるのかな…。
夕方近くなった頃そんなことを考えていたら、部屋に来たお母さんがあたしの額に手をあてながら聞いてきた。
「可那子、お母さんちょっと買い物に行ってくるけど…ひとりでも大丈夫?」
まだ少しだるいけど、朝より体はすごく楽になっていたから、
「うん、大丈夫!行ってきていいよ」
とあたしが答えるとお母さんは、だけど…とあたしの顔を覗き込んだ。
「だけど、家を抜け出してブン太くんに会いに行こうとかしちゃダメよ?」
「……」
バレてる…。
あたしは心の中で舌打ちした。
だけどお母さんは、そんなあたしの気持ちを見透かしたようにいたずらっぽく笑うと
「ちゃんと監視役、つけていくからね」
そう言って部屋のドアを開けた。
「よ、可那子。大丈夫か?」
「うそ、ブン太!?」
まさかそこにいるとは思わない人物の登場に、あたしは本当にびっくりして声を上げた。
「わざわざお見舞いに来てくれたのよ。でもあんまりくっついて、ブン太くんに風邪うつしちゃダメよ?」
意味深な笑みを浮かべたお母さんはそう言った後、
「ふふ、じゃあお願いね」
と、本当にブン太に監視役を任せて出かけて行ってしまった。
「…ん、もうだいぶいいみたいだな」
突然過ぎる展開に呆然とするあたしの額と自分の額に手をあてて、ブン太は安心したように笑った。
「ほんとに、ブン太だ…」
「おうよ。夢じゃないだろぃ?」
にかっと笑ういつものブン太の笑顔に、じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
「あっ、そうだ!」
そこで大事なことを思い出して、あたしはベッドから下りた。
「可那子?」
「ちょっと待ってて!」
そのまま台所へ行き、冷蔵庫からブン太のために作った、後でヤケ食いしようと思ってたケーキを取り出す。
「誕生日おめでとう、ブン太」
部屋に戻ってそれを手渡した。
「すげ、マジでこれ可那子が作ったの?めちゃうまそう!サンキューな!」
それを見たブン太は、ただのイチゴのデコレーションケーキなのにすごく喜んでくれた。
「凝ったの作れなくてごめんね」
「これで充分すぎだろぃ。マジありがとな!」
本当に嬉しそうに言ってくれるから、あたしも照れくさいけど嬉しくなってくる。
「な、食わせてよ」
ブン太がスプーンを差し出してくる。
あたしは素直にそれを受け取って、イチゴ1個と生クリームとスポンジをすくった。
「はい、あー…」
「…ん。…うん、うまい!」
ブン太が笑って、あたしの手からスプーンを持って行く。
大きなひと口をすくうと、あたしに差し出した。
「おすそ分け」
結婚式のファーストイートみたいなんて思いながら、ひと口にはちょっと大きいそれをあたしは頬ばった。
甘くて、おいしい。
上手にできてよかった。
ほっとしながら唇についたクリームを指で拭うと、その手を掴まれて指を舐められた。
そのまま引き寄せられると同時にブン太の顔が近付いてきて、唇もぺろりと舐められた。
「可那子も、うまい」
ブン太が満足そうに笑う。
なんだか恥ずかしくて俯きそうになる顔を持ち上げられた。
「…うつるよ?」
「平気」
「――…」
ブン太の唇が重ねられて、そのまま舌がすべり込んでくる。
ブン太の唇も舌も…いつもより温度が低い気がするのは、やっぱりあたしの温度が高いからなのかな、なんてぼんやり考えてたら、ふと唇が離れた。
「舌、熱い。また熱上がったんじゃね?」
きゅっと抱きしめられる。
「もう…ブン太のせいでしょ」
「はは、知ってる」
言い返してみたけど、悪びれもせずそう言ったブン太にそのまま押し倒されてしまった。
「ちょ…ブン太っ」
「――…抱きてぇ」
「…っ」
耳もとで言われて顔が熱くなる。
けど、気がかりなことがひとつ。
「…お母さん、帰ってくるよ?」
「!……」
とりあえず口にしてみたら、ブン太は一瞬固まった後、大きな大きなため息をついて体を起こし、あたしの体に布団をかけてくれた。
ブン太が好き。
すごく好き。
「ブン太」
「ん?」
「治ったら…しようね?」
あたしはベッドの脇に腰かけたブン太にそんなお願いをしてみた。
そうしたら、甘いものを食べた時みたいに嬉しそうに笑ったブン太は
「ああ、思う存分な!」
そう言って、触れるだけの優しいキスをくれたんだ――。
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