強い君と弱いぼく
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「ん…」
可那子が声を漏らし、その瞳をうっすらと開いた。
そして
「あたし…、生きてる…?」
そう呟いた時、動かそうとした右手に違和感を覚えゆっくりと首をそちらに向ける。
そこには、花太郎が眠っていた。
その手に可那子の手をしっかり握りしめたまま。
「…花…」
その名を小さく呼んでみるが、花太郎が目覚める気配はない。
可那子は花太郎に握られた手は動かさないように体をそっと起こした。
体に痛みはなかった。
自分でももうダメだと思うほどの傷だったと思うのに。
「花が、助けてくれたんだね…」
体に残る、優しい霊圧の名残り。
それは毎日のように感じていた、花太郎のものに間違いなかった。
「…ありがと」
空いた方の手で、花太郎のさらりとした前髪に指を絡める。
とその時、小さく声を漏らして花太郎が目を覚ました。
ゆっくりと体を起こし、ぼんやりとした瞳で可那子を見つめている。
しばらくの間ふたりは何となく見つめ合い、
「おはよ、花」
と可那子が先に口を開く。
花太郎は数回瞬きをした後、嬉しそうな、でもどこか泣き出してしまいそうな笑みを浮かべ、
「よかったぁ…」
はあ――…っと、深く長く息を吐き出した。
「ありがと、花」
可那子は、まだ可那子の手を握ったままの花太郎の手を左手で包み込んだ。
「そんな…」
花太郎は少し照れたような笑みを浮かべたが、
「花には、初めて会った時から助けられてばっかりだね」
可那子のこの言葉を聞くと、俯き小さく首を振った。
「花?」
可那子が不思議そうに首を傾げると、花太郎は独り言のように言葉を紡いだ。
「もし可那子さんが助けてほしくないと思っていたとしても、助けたと思います…ぼくのために。ぼくは、どうしても…可那子さんを失いたくなかったから」
ここで一度言葉を切って顔を上げ可那子を真っ直ぐに見ると、
「ぼくは、可那子さんが好きです」
花太郎は自分の気持ちを素直に口にした。
「こんな弱いぼく…可那子さんにふさわしくないかもしれないですけど…」
けれど直後に苦笑いを浮かべ、また目を逸らしてしまう。
「花…」
可那子は愛しげに花太郎を呼び、
「あたしね、戦いに負けて死ぬのは仕方ないって思ってた。自分が弱いだけだから。…でもね、後悔しながら死ぬのはイヤだなって思ったんだ」
今の自分の正直な気持ちを口にした。
「…後悔?」
俯いて聞いていた花太郎が顔を上げ、問う。
「そう。…花を好きだって、伝えなかったこと」
可那子は言いながら花太郎を見つめ、
「あたしも大好きだよ、花」
と、真っ直ぐに花太郎の気持ちに応えた。
そして直後、
「花…抱きしめてもいい?」
そう言いながら可那子は花太郎の首に抱きついた。
「あったかいね、花」
「可那子、さん…っ」
「花は、あったかくて、優しくて…強い」
「…強い…?」
突然の可那子の行動に花太郎は泡を食ってじたばたしたが、可那子の呟いた言葉に動きを止め、小さく問い返した。
「うん。だってこんなにも、あたしを守ってくれてる。あたしには花が必要なんだって、気付かせてくれる…」
「可那子さん…」
花太郎がそっと可那子の体に腕をまわしその細い体を抱きしめると、まだ万全じゃない可那子の体を花太郎の霊圧が優しく包み込んだ。
「なんか…」
「え?」
「なんかあたしたち、役割が逆な気がするね」
可那子が腕を緩め、花太郎の顔を覗き込む。
「十一番隊の可那子さんに戦うななんて言いません。可那子さんが戦って、ぼくが治す。それでいいと思いますよ」
花太郎はにっこり笑って答えてから、
「可那子さんのケガは、全部ぼくが治します。…これからも、ずっと」
と少し照れながら付け加えた。
「ありがと、花…これからも、お世話かけます」
「はい、任せて下さい」
嬉しそうに言う可那子と、優しく笑う花太郎は、ふたりおでこをくっつけたままくすくすと笑い合った。
全員無傷でとはいかずとも出現した虚は全て殲滅され、救護詰所の片付けをしなくてはならない四番隊より一足先に、可那子はケガの治療を受けていた他の十一番隊隊士たちと共に尸魂界へと戻った。
「今回お休みを返上して下さった隊士の方には、代わりのお休みを差し上げますので…」
片付けを始める前の卯ノ花の言葉を思い出しながら、花太郎は忙しく働いた。
「帰ったら、まずは可那子さんに次のお休みを聞かなくちゃ!」
そう思うだけで力が湧いてくる。
思いがけない事件で流れてしまったあの約束。
いつになるか分からないけれど次に非番が重なった時に、と代わりの約束をした。
それが近いうちに実現しそうで、花太郎の心は弾む。
「山田七席ー!ちょっといいですかーっ」
四番隊の隊士の、花太郎を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい!!」
花太郎は元気いっぱい返事をし、声の方向へかけ出した――。
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