強い君と弱いぼく
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「なあ松本、あいつらって付き合ってんのか?」
一角が十一番隊に書類を届けに来た十番隊副隊長・松本乱菊に問いかけた。
視線の先には、一角との剣の稽古を終えその激しさを物語るように傷ついた可那子とそれを治療する花太郎の姿。
「んー?ああ、あの子たちね…」
一角の視線を追った乱菊もふたりの姿をその視界に捉える。
「付き合ってはいないらしいわよ」
と答えながら乱菊は、
『ねえ可那子、あんたあの四番隊の子と付き合ってんの?』
先日可那子と呑みに行った時に可那子自身にした質問を思い出していた。
「え?あ、花ですか?あたしが花と?そんなまさかですよぅ」
乱菊の問いに可那子はどこかさみしげに笑いながら答え、その笑みの理由を乱菊は、続いた可那子の言葉で理解した。
「花が、あたしなんかと…」
「なるほど、あんたはあの子が好きなのね」
乱菊が納得したように言うと、可那子は酒を吹き出しそうになるほど驚き、動揺した。
「な…なんで…っ」
「なんでって、あんたが今自分で言ったんでしょ?花があたし“なんか”と付き合うはずがない…花にはあたし“なんか”よりもっとふさわしい人がいるはず…」
「乱菊さんっ」
楽しげに言う乱菊を困ったように制そうとする可那子だったが、
「あのね、あんたくらい綺麗だったらもっといい男捕まえられるわよ?言っちゃ悪いけど、あんたとあの子じゃ…」
「花はいい男ですっ!」
突然真面目な表情を作り続けられた乱菊の言葉には、可那子も真剣な表情になり反論した。
「顔とか身長とかそんなんじゃなくて、花は心が綺麗なんですっ!あたしのことだってちゃんと、女の子として…見て、くれるし…」
言いながら何かに気付いた可那子の声はだんだん小さくなり、顔は耳まで真っ赤になる。
「やっと白状したわね」
「…誘導尋問…っ!」
そんな可那子を見て乱菊はにやりと笑い、可那子はますます真っ赤になりながら悔しそうに呟いたのだった。
「付き合ってはいないらしいけど…お互い好き合ってんのは誰が見ても一目瞭然よね」
治療を終え、池の鯉を眺めながら楽しそうにお喋りしているふたりを乱菊は優しい瞳で見つめた。
そして隣で同じようにふたりを見ている一角にいたずらっぽい笑みを向け、問いかける。
「残念?」
「…何言ってやがる」
その問いに一角は、そう一言答えてその場を後にした。
『最近はよく十一番隊へ行っているそうですね、山田七席』
乱菊が可那子とのやり取りを思い出していた時、花太郎もまた、陽に透ける可那子の髪に見とれながら自身と四番隊隊長・卯ノ花烈とのやり取りを思い出していた。
それは卯ノ花の生け花教室が終わり、余ったおやつを食べながらお茶を飲んでいるひと時のこと。
皆が思い思いにお喋りをする中、卯ノ花が花太郎に話しかけたのだった。
「はい、すみません…」
花太郎が小さくなって謝るが、
「いいえ、咎めているわけではないのですよ。あなたは他の隊務を疎かにしているわけではありませんからね。それに、あなたの治癒霊力も上がっているようですし」
卯ノ花がにっこりと笑い、花太郎もそれにつられて照れたように笑ったが、
「そうして毎日彼女を治すことが修行になっているということですね」
という卯ノ花の言葉にその表情をきゅっと引き締めた。
「いえ、ぼくは修行だと思っていません。ぼくはただ…ただ可那子さんの傷を治してあげたいと思っているだけで…すみません…」
隊長に反論、それも修業を否定するような思いを語ったことで花太郎は恐縮する。
しかしそれを聞いた卯ノ花は
「あらあら。私としたことが、無粋なことを」
言いながらお茶をひとくち口に含み、それをゆっくりと嚥下した後
「彼女が、大切なのですね」
ふんわりと優しい笑みを浮かべた。
「はい、大切です…とても」
花太郎ははにかんだ笑みを浮かべて答えた後
「でも、可那子さんに似合うのはもっと強い男の人だと思うので…」
と俯き、その笑みは自身なさげなものに変わってしまう。
「剣術に優れているだけが強い殿方、というわけではないと思いますよ」
それを聞いた卯ノ花は、優しい笑みを浮かべたまま言った。
「自信をお持ちなさい、山田七席。あなたはもう充分に強くて素敵な殿方ですよ」
「そうでしょうか…」
卯ノ花の言葉に対し花太郎は相変わらず自身なさげに言うが、
「もし彼女の求めているものが剣術の強さだったとしたら…その時は他の誰かに譲るのではなくて、あなた自身が強くなればよいではありませんか」
続いた言葉に目を見開いた。
そして、ああ、そうか…と独り言のように呟いた後、顔を上げ真っ直ぐに卯ノ花を見つめる。
「ありがとうございます、卯ノ花隊長!諦めるのは、もっと頑張ってからにします!」
そう言った花太郎を見つめる卯ノ花の瞳は、穏やかで優しい光をたたえていた。
「ねえ花、あさって非番だったよね?」
可那子に問いかけられ、花太郎はそこで思考を中断した。
「はい、お休みですよ」
「あたしも休み!あたしね、流魂街で景色の綺麗な所見付けたの。お弁当持ってピクニックに行かない?」
にこっと笑って答えた花太郎に可那子が提案すると、
「わぁ、いいですね。じゃあぼく、おやつ持って行きますね」
花太郎は嬉しそうに、さらに笑顔になってそう言った。
しかし――…
その約束が果たされるのは、少し先のことになる。