強い君と弱いぼく
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
個人的な日課の流魂街見廻りから戻った、護廷十三隊十一番隊第七席・蔵本可那子と、お遣いの帰り道だった四番隊第七席・山田花太郎の出会いは偶然だった。
いつもより帰りが遅くなってしまい、もう一つの日課、斑目三席・綾瀬川五席との剣の稽古に遅れそうで焦っていた可那子は、近道をするために塀を乗り越えた。
――までは良かったのだが。
「うわぁ!!」
「きゃあっ!!」
直後、可那子の着地点にちょうど踏み込もうとしていた花太郎と派手に衝突してしまった。
「あいたたたぁ…」
「ごめんなさいっ、大丈夫?」
尻もちをついた花太郎が呻き、花太郎を突き飛ばす形になってしまった可那子は慌てて駆け寄り手を差し伸べた。
「ありがとうございますぅー」
花太郎が可那子の手を取りよろよろと立ち上がろうとする。
「ううん、今のは100%あたしが悪いから…ほんとごめんなさい」
可那子は申し訳なさそうに言いながら花太郎を助け起こし、
「ケガ、してない?」
と心配そうな瞳を花太郎に向けた。
尻もちをついた時に一緒についた手の平、そして手の甲を見てから、
「大丈夫です」
花太郎はにこっと笑った。
「そっか、よかった。あ、あたし更木隊七席、蔵本可那子」
花太郎の言葉に表情を緩めた可那子が名乗ると、花太郎も
「十一番隊ですか、じゃあ強いんですねぇ。ぼくは四番隊の山田花太郎っていいます。僕も七席なんです。よろしくお願いします」
またにこりと笑う。
そして可那子が人懐っこい笑みと共に差し出された手を少し照れくさそうに握り返した時、
「ぼくじゃなくて蔵本さんがケガしてるじゃないですかっ」
可那子の手を見た花太郎が言う。
「あ、これ?平気、舐めとけば治るよ。こんな傷しょっちゅうだしさ」
可那子は気にした風もなくその手をひらひらと振ってみせた。
しかし花太郎は
「そんなっだめですよぅ、女の子なんですから…ちょっといいですか?」
言いながら、その傷に手をかざす。
ふわりとあたたかい感覚に包まれたかと思った直後、その傷はみるみる消えていった。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「…すごい」
花太郎はまたにこりと笑い、それを見つめていた可那子は感動して呟いた。
そして、花太郎の手をしっかと掴むと、
「すごい!すごいよ!!四番隊の人ってほんとにこんなことできちゃうんだね!」
その手をぶんぶんと上下に振り、素直な感動を露わにした。
「全然すごくなんて…これだけしか取り柄がないん…」
「充分だよ!だってあたしにはこんなことできないもん!」
自信なさげな表情で言う花太郎の言葉も遮り、可那子はまくしたてる。
「ほんとすごいね!尊敬しちゃう!」
可那子は物怖じしない性格で普段から大胆不敵な振る舞いを見せているが、自分にできないことが出来る相手を素直に認められるというようなとても殊勝な一面も持ち合わせていた。
そしてそれは初対面の花太郎にも理解でき、
「蔵本さんは、優しい人なんですね」
そんな可那子につられて、花太郎の口からも素直な言葉が紡がれる。
「…そんなこと初めて言われた」
その言葉に可那子は驚きと照れくささの入り混じった表情を浮かべたが
「いつも、もっとおしとやかかと思ったとか言われてふられてばっかりなんだよ。なんかね、外見と中身が違いすぎるんだって。あたしの外見からどんな性格を想像してるんだか」
話しながらその表情は苦笑いに変わる。
そんな可那子を見つめていた花太郎は
「どうしてでしょう?外見は綺麗だし中身は素直で優しくて、とても女の子なのに」
そう言って首を傾げた。
可那子は、花太郎の屈託のない笑顔を見つめ返しながら、今まで向けられたことのない類の言葉に少し戸惑いながらも、心の一番深い部分がほっとあたたかくなるのを感じていた。
「ありがと。なんか照れくさいけど、でも嬉しい。全く、今の言葉あたしのこと絶対女だと思ってないうちの三席・五席にも聞かせたいもんだわ」
そして花太郎の言葉に感激しつつ愚痴った時、
「ほう、俺に何を聞かせたいって?」
塀の上から声が降って来た。
「あ、十一番隊の…」
「一角さん!?」
驚いたふたりが見上げたそこには、十一番隊第三席・斑目一角の姿があった。
「全く、稽古に来やがらねぇと思ったらこんなとこにいたのか」
一角の言葉を聞いた可那子は、そこでようやく思い出したようにぽんと手を打つと
「あは、忘れてました!すいません」
悪びれもせずに言う。
「まあおめぇのことだ、大方そいつになんか迷惑かけてたんだろ」
そんな可那子の言葉に怒る素振りは見せず、一角は花太郎を指しながら言った。
「あ、人聞き悪…って、でも正解です。言い訳しません。稽古、まだ間に合いますか?」
可那子も自分の非を素直に認め、一角に問いかける。
「ああ、でも来んなら早くしろ。今日は弓親に見てもらうんだろ」
「やば、そうでしたっ!」
そして、ここにきてようやく少しの焦りをにじませた可那子は、花太郎を振り返った。
「ごめん花、あたし行くね!治療、ありがと」
治してもらった手を見せながら可那子は花太郎に改めてお礼を言い、先に行ってしまった一角を追って駆け出そうとする。
「あ、蔵本さん!」
花太郎が何かを言おうとして可那子を呼ぶと、
「可那子でいいよ、あたしも花って呼ぶから…って、もう呼んでるけどねっ」
笑って言いながら、すでに可那子は駆け出していた。
「じゃあ可那子さん!ぼくが治しますからっ、どんな小さなケガもちゃんとみせて下さいねーっ!」
可那子の背中に花太郎が呼びかける。
「ありがとーっ…」
振り返った可那子が大きく手を振った直後、その姿は掻き消えた。
「…女の子、なんですから…」
最後に可那子が去っていった方に向かったまま花太郎が呟いた言葉は、当然可那子の元に届くことはなく…吹き抜けた風にかき消されていった。
1/4ページ