愛しすぎて
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「じゃあ今日はここまで。解散」
幸村の声に今日のメニューを全てこなした部員たちが散って行く中、
「仁王」
幸村は相変わらずぼんやりしている仁王を呼んだ。
呼ばれた仁王と、パートナーの柳生と、そして丸井が立ち止まる。
事情を知っているらしい真田と柳は既におらず、空気を読んだジャッカルは何なんスか?と聞いた切原を連れて部室へと向かった。
「今日の練習、全然身が入ってなかったね。集中力も皆無」
呆れたように言う幸村に対し仁王は一切の反論をしなかったし、当然出来るはずもなかった。
「素振り3000本」
「…っ」
幸村の課した罰に息を呑んだのは、柳生だった。
「柳生もブン太も付き合わなくていいよ。そんなことしたら5000に増やすからね」
有無を言わさない口調で幸村は言うと、コートの一面だけ照明を点け、心配そうに仁王を見るふたりを連れて部室へと戻って行く。
「幸村!」
幸村たちが部室に戻ると、そこに可那子が駆け寄った。
「可那子さん!?何故ここに…」
「やぁ、早いね。可那子の家からだともう少し時間かかるかと思ってたんだけど」
驚いた声を上げた柳生をよそに、幸村はにっこりと笑って可那子に対峙する。
「…部活終わるの、待ってたから…」
可那子が少し言いにくそうにそう答えると、幸村は、じゃあ…と口を開いた。
「じゃあ原因は聞かないけど…もう仲直りしてもいいって思ってるってことだね?」
「知ってたの…」
その質問に可那子はうつむく。
「うん。だから『仁王のことで話がある』ってメールしたんだ。それに可那子だって別れる気はないってことだろ?」
「――…何でもお見通しだね…」
たたみかけてくる幸村に、可那子は困ったように笑うしかなかった。
「そうじゃないと困るんだけどね。ここまで影響力ある彼女に別れられたら、うちはレギュラーをひとり失いかねないんだから」
「…それって…どういうこと?」
可那子と同じような困った顔を作って見せる幸村に、今度は可那子が問いかける。
「どうもこうも、そのままの意味。いつも飄々としてる仁王をケンカぐらいであそこまで壊しちゃうなんてね。頼むよ、あれでもうちの大事な戦力なんだからさ」
「…ごめん…」
本当はそんなこと言われる筋合いはないのかもしれないが、それでも申し訳なさそうに縮こまる可那子に、すると幸村はにこりと笑って見せた。
「ちゃんと仲直りするなら、仁王への罰、半分にしてあげるから。早く行って」
「半分?」
「うん、素振り1500本に」
…もともと3000本だったんだ…と、可那子もまた幸村の笑顔にうすら寒いものを感じながら、それでも
「うん、ありがと!あ、それからこれ、貸してね」
幸村と、後ろで事を見守るレギュラーの面々にそう言うと、コートに向かって駆け出した。
テニスコートに着くと、仁王が一心不乱に素振りをしていた。
真剣な顔、揺れる銀の髪、綺麗なフォームにしばらく見とれていた可那子は、その仁王に向けて借りて来たラケットで同じく借りて来たボールを打ち込んだ。
はっと気付いた仁王がそれを打ち返し、それをコートに降りた可那子がキャッチする。
「可那子…?」
その姿をみとめた仁王が驚いた表情から戸惑い気味の声を発した。
「どれだけ振った?」
可那子はそんな仁王に反対のコートから質問を投げる。
「1000…」
「じゃあ後500、ラリーしよう、雅治。幸村が1500にしてくれるって言ってたからさ。残り500、半分こしよ」
答えを聞いた可那子はそう言ってにこりと笑うと、間髪入れずにボールを打ち出した。
初めは戸惑ったままボールを打ち返していた仁王だったが、可那子がいたずらっぽく笑いながら打ちにくい場所や左右に走らせるように打ち返したりしているうちに、少しずつその顔に不敵な笑みが戻ってくる。
そうなってしまえば、可那子がかなう相手じゃない。
本気になってみても、翻弄されてしまうのは完全に可那子の方になってしまっていた。
「可那子、ラストじゃ!」
「やあっ!」
最後は仁王が絶妙な位置にロブを上げ、可那子はスマッシュを決めさせてもらえたものの…
「ごひゃ、く…」
直後、汗だくの可那子はその場にへたり込む。
「可那子」
その目の前に差し出される、駆け寄って来た仁王の手。
「…っ」
可那子が荒い息のままその手を取ろうとした瞬間、強く握られ、引かれる。
ふわりと浮いた体はそのまま仁王の熱に包まれた。
「……」
「雅治…?」
しかし可那子を抱きしめたまま何も言わない仁王を、可那子が小さく呼んだ。
すると仁王はゆっくりと息を吸い、口を開く。
「俺は、可那子にべた惚れなんぜよ」
「…うん」
そう答えてしまうほどに、熱烈なアタックだった。
「だから、可那子のことは何でも知っていたいんじゃ」
「うん」
もちろん、不快に思ったことなんてない。
「でも、すまんかった」
「…ううん、あやまんなくて、いい」
ここで可那子は首を横に振り、ただちょっと恥ずかしかっただけなの…と、仁王の背中に腕を回した。
「雅治があたしのこと、いつもいつも見てくれてるの、知ってる。具合悪い時も落ち込んでる時もすぐ気付いてくれるのに…。あたしの方こそ、ごめんね。キライなんてウソだから…」
可那子は顔を上げ、仁王をまっすぐ見つめた。
「あたしのこと、キライにならないで…?」
仁王は一瞬目を見開き、直後、抱きかかえるように強く可那子を抱きしめた。
「そんなこと、ありえんぜよ…俺には可那子が、どうしても必要なんじゃ…」
絞り出すような苦しげな声が、切なく響く。
「うん…」
それをしっかりと受け止めた可那子もまた、その想いに応えるように、仁王を強く抱きしめた。
「愛しとうよ、可那子」
「あたしも愛してる、雅治…」
→おまけ。