今はただ君のそばに
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委員会を終えた俺は、荷物を取りに戻った教室の入り口で立ち尽くした。
窓際の席に誰かいる。
机に突っ伏して…泣いているんだろうか。
薄暗い中、目を凝らす。
…驚いた。
それは、いつも一緒にバカやったりして騒いでるクラスメイト…可那子だった。
少し迷ったが、俺は可那子に近付いた。
「おーい、どうした?」
声をかけながら、可那子の前の席に後ろ向きに座る。
俺の声に可那子は一瞬体を震わせたが、声の正体が俺だって気付いたんだろう、
「…何でもない」
顔も上げずにそう答えた。
俺は鞄から普段昼寝の時に愛用している物を取り出し、
「何でもなきゃ泣かねぇだろ?」
と、つんと髪を引っ張る。
「ほっといて…、っ!?」
苛立ったように顔を上げた可那子の目もとにそれを押し付けた。
「何これ…アイピロー?」
可那子が両手でそれの端に触れながら呟く。
「冷たくて気持ちいいだろ?今だけ貸してやる。邪魔なら、俺はもう行くから…」
俺はそれの真ん中を押さえたまま言い、その手を離そうとした。
とその時、
「邪魔じゃないから…もう少しいてくれない?」
そう言った可那子の手が俺の手をきゅっと握った。
それからしばらくの間、アイピローを当てたまま机に突っ伏す可那子の頭の横に頬杖をつき、何となくその頭をなでてやりながらただ時間の流れに身を任せていた。
途中ブン太宛てにメールを一通だけ送った。
『今日、部活休む。幸村にうまく言っといてくれ』
「あたしね、ふられちゃったんだ」
腕の上に顔を横向きに乗せ、ぽつりと可那子が呟いた。
「『もう少し女らしいと思ってた』んだってさ」
可那子は、お世辞抜きで美人だ。
だが性格は、男子ともタメはれるほど…言い方は悪いが、ガサツというかなんというか…。
『黙ってればいい女なのに…』
それが、周りの男子の口癖のようになっていた。
まぁそれを当の本人は全く気にしていなくて、俺たちとバカやって騒ぐのが楽しくて仕方がないみたいだった。
そして俺も、そんな飾らない可那子を好きになったんだ。
ただ、そんな風に校内では残念な美人と有名な可那子のことを、他校の生徒が知らないのは無理もない話だった。
そう、可那子は通学途中に告白してきた他校の生徒と付き合っていた。
正直、彼氏ができたと聞かされた時はキツかったさ。
だけど彼氏のことを楽しそうに話す可那子を見てて、あ、こいつは本気なんだって思えたし、普段一緒に騒ぎながら近くにいられるだけでも幸せだって思えるようになってきてたんだ。
「『少しずつお互いを知って行こう』って言ったくせに、少し知った途端これだもんね。あたしのこと、どんなレンズ越しに見てたんだか知らないけどさ」
涙がおさまったら悲しみに抑えつけられていた他の感情が湧いてきたらしく、体を起こした可那子は気に入らなさそうにそう言って頬を膨らませた。
その後、俺に向かって
「ごめん、部活さぼらせちゃったね」
と申し訳なさそうに言う。
「気にすんな。つーか、お前がそんなしおらしいと気持ち悪い」
しかし俺がそう言った途端、可那子の口調が変わる。
「うわムカつく!人がせっかく謝ってあげてんのに!」
「はは、それでいい。さ、じゃあ帰るぞ。学校閉まっちまう」
それに少し安心した俺は、荷物を掴んで立ち上がった。
「…でも、ありがと」
可那子が立ち上がるのを確かめてから教室の出口へ向かった俺の、背中に届いた声。
「おう」
俺は片手を上げ、振り返らずに先に教室を出た。
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