いじわるな神様
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今日は3月5日。
あたしにとって、すごくすごく大切な日。
何の日かって?
今日はね、大好きな精市の誕生日なんだ。
だから、朝一番に会っておめでとうを言うはずだったの。
なのに…。
なのに、朝からいきなりツイてない。
めずらしく目覚ましが鳴る前に起きれたと思ったら…何これ、時計…止まってる。
「きゃあぁー!」
叫んで階段を転がるように下り、大慌てで支度する。
「あら、今日は休むのかと思ったわ」
放任主義の母親は呑気にそんなことを言う。
干渉はしない。
その代わり自分のことは自分で。
それが我が家のモットー。
って、そんなこと言ってる場合じゃないよ!
呑気ながらも用意された目玉焼き、の横のウインナーをぱくり。
ミルクをごくん。
「行って来まぁす!」
あたしは家を飛び出した。
「間に合ったぁ…」
全力ダッシュでギリギリセーフ。
疲れきって授業なんてほとんど聞いてなかったけど、休み時間には復活。
「さて、と」
教科書を閉じ、おもむろに立ち上がる。
と、
「蔵本」
名前を呼ばれた。
うわぁ、この声…振り返ると案の定、声の主は我らがテニス部副部長であり風紀委員長の真田だった。
「朝練を無断欠席した理由は」
やっぱりそうきたか…。
考えないようにしてたけど、あたし、テニス部のマネージャーなんだよね。
教室入った時の真田の目、こわかったし。
あたしは目を逸らし、ぽつりと答える。
「…寝坊した…」
「寝坊!?たるんどる!!」
「うきゃあ、ごめんなさいー」
「大体お前は…」
ああ…始まっちゃったよ、お説教。
こうなったお父さんは誰にも止められない。
精市のとこ行きたいんだけど、なんて言い出せる雰囲気じゃないな。
次の休み時間にしよう…精市、ごめんね。
よし!今行くよ、待ってて精市!
次の休み時間、あたしは無事に教室を飛び出した。
なのに…
「よお、可那子じゃん」
「お、朝練さぼった可那子じゃ」
あたしの行く手を阻む影が二つ。
「ブン太…雅治…」
ああ、イヤな予感。
「まぁちょっと寄って行きんしゃい」
「あの、あたし今ね、急いでて…」
「可那子が朝練来なくて、俺さみしかったんだぜぃ?」
「いやいや、全然そんなこと思ってないでしょ」
誰かこのB組コンビどうにかして…。
C組は目と鼻の先なのに…。
精市ぃ…。
次の休み時間は初めからあきらめてた。
教科委員のあたしは先生の手伝いで授業の後片付けをしなきゃだったから。
そして泣きそうになりながら4限目の授業を受け、ようやく時間に余裕のある昼休み!
お弁当もそこそこにあたしは精市のクラスへ向かった。
見つけたっ!精市…
「幸村!ちょっと大変なんだけどっ」
声をかけようとした瞬間、反対側の入口から誰かが精市を呼ぶ。
うそ、ここまで来たのにっ!
でもなんか切羽詰まった感じだったし…邪魔することもできないうちに、たぶん美化委員の人と一緒に精市は行ってしまった。
「はぁ…」
もうため息しか出ないよ。
精神的に疲労困憊のまま午後の授業を受け、それでも気を取り直したあたしは部活前の精市を捕まえに走った。
「精市っ」
辿り着いたC組で精市を呼ぶ。
だけど精市はいなかった。
落胆したあたしに精市のクラスメイトが教えてくれた。
「幸村なら先生に呼ばれて行ったよ。そういやあいつ、なんか元気なかったみたいだけど…ケンカでもしたのか?」
…ちょっとだけ神様を恨みたくなりました。
ありがとうとお礼を言い、あたしはまた走った。
でも…。
職員室に行くも空振り、教科準備室にもいない…。
もう部活に行ったのかもと、真田に見つかるとうるさいから中庭からテニスコートを眺めてみるけど、やっぱりいない…。
どこ行っちゃったの、精市…ほんとに泣きそうなんですけど…。
「あーん、精市のばかぁ」
途方に暮れたあたしの口からそんな言葉が飛び出した時、
「俺がなんだって?」
ふわりとぬくもりに包まれた。
「精、市…?」
「やっと捕まえたよ、可那子。今まで何してたんだい?今日は俺に何か言うことがあるだろう?」
あたしの体をくるりと反転させて、精市が言う。
その表情は、困った子だねと言いたげで…あたしは心の中で小さくため息をついた。
でもね。
「もう、人の苦労も知らないで…」
なんて言いながらも、こみ上げるのは愛しさだけ。
「え?」
「ううん、何でもなーい」
あたしはきゅっと精市に抱きついて、耳もとでそっと囁いた。
今日一日、ずっと言いたくて言えなかったその言葉を。
「誕生日おめでとう、精市…」
→あとがき。
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