それでも生きて
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現世での戦いで致命的な傷を負わされたスタークとリリネット。
桜介と蘭丸の必死の看護によって辛うじて一命は取り留めたものの、数週間経った今もまだ意識は戻らないままだった。
「リリィ…」
蘭丸がリリネットの手を握り、その名を呼ぶ。
桜介がそんな蘭丸を見つめ、リリネットに目を移す。
桜介はリリネットが好きだった。
口は悪いけどいつも元気いっぱいで、ふたりに対しても真剣に色々なことを教えてくれた。
だけど、その想いは蘭丸も同じ…ということもよく分かっていた。
と、その時。
「…っ」
スタークの口から、かすかに呻き声が漏れた。
「スタークっ」
ふたりがその顔を覗き込むが、まだ意識を取り戻したという様子ではなく、桜介はその額の汗を拭ってやりながらため息をついた。
スタークは以前、可那子に想いを寄せていた。
その想いの表し方を間違えたせいで、可那子を傷付けたこともある。
決して許せることじゃない。
けれど、それでも、スタークにも生きてほしいと、そんな奴は放っておけと言ったグリムジョーにふたりは言った。
可那子もまた、許すわけじゃない、忘れるわけじゃないけど、ゼロからやり直そうとする努力はできると優しく笑い、グリムジョーはスタークを殺そうとすることをやめてくれた。
桜介は蘭丸の隣に座り祈るような気持ちでリリネットの顔を見つめた。
ただ時間だけが流れていく。
連日の看護に疲れの溜まっていたふたりはうとうとし始めていた。
とその時、蘭丸がはっと目を覚ます。
「リリィ!?」
その声に桜介も目を覚まし蘭丸を見ると、蘭丸はリリネットの手を握った自分の手を見つめていた。
リリネットの手が、弱々しくはあるもののしっかりと蘭丸の手を握り返していた。
ふたりが同時にリリネットの顔を覗き込むと、まぶたがかすかに痙攣しているのが分かった。
「リリィ…?」
蘭丸が小さく呼びかけると、そのまぶたがうっすらと開かれ、すぐ閉じられた。
そしてもう一度まぶたがゆっくりと持ち上げられる。
焦点の定まらない瞳はしばらく空をさまよい、その後、心配そうに自分を見つめる蘭丸と桜介を捉えた。
「蘭丸…桜介…?」
「リリィ!良かった…!」
ふたりの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれる。
それを見たリリネットが、
「泣くなよ、男だろ…!っつ…」
と体を起こそうとして、痛みに顔をしかめた。
「ダメだよ、まだ寝てなくちゃ!本当にひどい傷だったんだから!」
慌ててベッドに押し戻す。
「スタークは…」
リリネットが小さく問う。
「生きてるよ。まだ意識は戻らないけど…」
桜介の言葉を聞き、かすかな霊圧でスタークが生きていることを確かめたリリネットは、何を思ったのか痛む腕をまっすぐ上に伸ばした。
「リリィ?」
蘭丸の問いかけと同時に、そのまま左側のスタークの方へ向けて腕の力を抜く。
「げほっ!」
リリネットの腕はスタークの喉もとに直撃し、その衝撃に体を跳ね起こしたスタークは
「ゴホッゴホッ…っつぅ…っ!」
傷の痛みを訴えながら、激しく咳き込んだ。
「ちょ…っリリィ何してんのっ!スターク、大丈夫!?」
喉もとをさすりながらはぁ…っと息を整え、スタークは隣に横たわっている自分の片割れを見た。
「よっ!スターク」
リリネットはにかっと笑う。
傷は痛々しいが、それでもいつものリリネットの様子にスタークは呆れたように、しかし安堵のため息をついた。
「スターク…良かった、気が付いて」
桜介の声に、はっとそちらを見る。
「あ、あぁ…そうか、俺は…」
スタークはその瞬間に全てを思い出した。
「お前らが」
助けてくれたのか、と口を開くと同時に部屋の扉が開いた。
清潔なタオルを両手に抱えて部屋に入ってきたのは、可那子だった。
「可那子…」
そちらに目をやったスタークが呟くと、
「スタークさん!…リリネットちゃんも!?」
ふたりの意識が戻ったことを知った可那子が声を上げ走り寄る。
「……」
可那子とスタークが顔を合わせるのは“あの日”以来だった。
スタークは気まずそうに顔を逸らす。
しかし可那子は
「よかった、意識戻ったんですね…でも無理しないで、まだ横になってて下さい」
スタークの側に回り枕のタオルを取り替えながら、安堵と心配が入り混じっただけの表情で言う。
可那子の真意が読み取れず、スタークは戸惑った。
「…可那子」
「ひとつだけ」
体を横たえ、何を言うとはなしにその名を口にしたスタークの声に被さるように、可那子の口が開かれた。
「あたしはグリムジョーを愛してます。でも、スタークさんにも生きてほしい」
真っ直ぐに告げられた、可那子の想い。
スタークの気持ちに応えることはできない。
しかし自分たちは、ここで生きて行くことしかできない。
だから、ゼロからやり直そう…という可那子の想いは、可那子の頬の、仮面の欠片を見つめるスタークへと、静かに伝わった。
「本当に…悪かった」
スタークは絞り出すように言い、その後小さく言葉を紡いだ。
「――…ありがとう」
それを聞いた可那子は
「じゃあまずは、ケガを治して元気になって下さいね」
と、スターク、そしてリリネットに笑いかける。
意識が戻ったなら自分で栄養も取れるし、ケガの完治までそう時間はかからない。
可那子の言葉に同感、の意を込めて桜介と蘭丸が頷くのを見たリリネットが、とても嬉しそうににかっと笑った。
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