③
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「ねえグリムジョー、お願いがあるの」
その時ふと真顔になった可那子がグリムジョーを見上げると、グリムジョーは是も非もなくただ可那子を見下ろした。
「
その反応を是ととった可那子は、自分の願いを口にした。
「グリムジョーに初めて逢った場所で、ほんとのグリムジョーにもう一度逢いたいの…お願い…!」
真っ直ぐ、しかしどこか苦しげに可那子は訴える。
「…ここにいろ」
すると、それまで黙っていたグリムジョーがそう言い残して瓦礫の山から下りた。
「え?」
「霊圧は抑えてやるが…終わるまで出てくんじゃねえぞ」
取り残された可那子に向かって言いながら、斬魄刀の柄に手をかける。
帰刃――斬魄刀に封印されている破面の真の姿と能力を解放するもので、破面になる以前豹に近い外見をしていたグリムジョーは、それを思わせる姿に変化する。
初めてふたりが逢った時のグリムジョーの姿がそれだった。
そして、グリムジョーが戦うわけでもないのに可那子の願い通り帰刃する気になったのは、可那子の行動の真意を見極めたいと思ったからに他ならなかった。
何故、気に入らないなら殺せばいいなんて言ったのか…
何故、グリムジョーの行動ひとつひとつにあれほど怯えていた可那子がグリムジョーと共にここに来たのか…
何故、帰刃した姿など見たいというのか…
可那子の願いを叶えてやることで、何か分かるかもしれないと思ったにすぎなかったのだった。
「…軋れ、『
静かな声で、グリムジョーが解号を唱える。
霊圧を抑えているにも関わらず、直後、大気が震えるほどの霊圧の上昇と共に凄まじい砂煙が巻き起こる。
並の人間なら確実に意識を失ってしまうだろうそれに、可那子は耐えた。
「すごい…!」
更に、感嘆の声を上げながら岩の影から這い出してグリムジョーに駆け寄る。
「最初ん時もそうだったが…やっぱ平気なのか。おかしな女だ」
そんな可那子を見下ろしながらグリムジョーがどこか呆れたように言うが、可那子の耳にはその言葉は届いていない様子で
「あの時と同じグリムジョーだ…こんな風に、変化するんだね…」
呟きながら伸ばされた可那子の手はグリムジョーの水浅葱色の髪に触れた。
頬から消えて額に形成された仮面と柔らかな耳にも触れ、そして初めて逢った時に射竦められた、鋭く光る瞳の下の
ただ、可那子はグリムジョーと目を合わせなかった。
「おい…」
それが何故か気に入らなかったグリムジョーが可那子の手首を握った時、初めてふたりの視線がぶつかる。
切なげな光をにじませた瞳で、可那子はグリムジョーを見つめた。
「…帰ろう、グリムジョー…」
「あん?」
その可那子の口からこぼれた言葉に多少拍子抜けしたグリムジョーは
「もういいのか。外に出たがったのはついさっきだぞ」
と、確かめるように尋ねた。
「いいから。…ね?」
「…ったく…」
その問いかけにきっぱりと答えた可那子を、グリムジョーは小さくため息をつきながら脇に抱えた。
解放状態のままのグリムジョーに連れられ、行った時より早くふたりは虚夜宮に帰って来た。
静かな通路の、帰って来た直後に解放状態を解いたグリムジョーの半歩後ろを、可那子は歩く。
「満足か?」
グリムジョーが自室の扉に手をかけながら問いかけると、
「うん…、ありがと…」
そのグリムジョーの背中に可那子は答えた。
「…そうか。じゃあな」
そのままグリムジョーは振り返らず自室へ入って行く。
「…っ」
閉まる扉で、グリムジョーの姿が見えなくなる――直前、駆け出した可那子の手は扉を押し開け、駆け寄り伸ばしたその腕でグリムジョーを後ろから抱きしめていた。
「!?…おい…!」
あまりにも突然だった可那子の行動に、グリムジョーは驚きを隠せなかった。
「いいよ、グリムジョー…」
そのグリムジョーの耳に、震える声が届いた。
体に回された腕からも、背中に寄り添う体からもそれは伝わってくる。
「――…」
グリムジョーは小さくため息をついた後、呆れたように言う。
「…何言ってやがる、震えてんじゃねえか。今さら体だけ抱いたって意味ねえんだよ」
「違う!そんなんじゃない…」
しかし可那子はグリムジョーの背中で小さくかぶりを振り、
「お願い、もう一度言わせないで…」
消え入りそうな声で続けた。
「……」
グリムジョーもそれ以上何も言わず、片腕を後ろに回すと可那子の頭を抱えるようにしながら自身の体を動かし、可那子と向かい合わせに立った。
グリムジョーを抱きしめていた可那子の手は、自然グリムジョーの上着の裾を握っていた。
見上げる濃茶色の瞳と見下ろす花浅葱色の瞳。
身を屈めたグリムジョーのその瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えた可那子は、そっと瞳を閉じた――…。
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