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夢小説設定
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「ん…」
どれだけの時間が経ったのか、小さく声を漏らし可那子が目を覚ました。
顔を上げ目が合うと、照れたように目を逸らしその胸に顔を埋める。
グリムジョーは可那子の髪にそっと口づけた後、口を開いた。
「現世へ…帰るか」
その言葉に可那子はグリムジョーの胸を押して顔を上げ、
「何…言ってるの…」
理解できない、といった表情で問い返す。
「現世へ帰れば、お前は周りの人間と同じ速度で歳をとれるだろう」
「…本気で、言ってるの…?」
可那子が体を起こし、真剣な瞳の中に僅かな怒りをにじませてグリムジョーを見る。
「……」
「グリムジョー?」
黙ってしまったグリムジョーを可那子が呼ぶと、グリムジョーは自嘲気味に笑いながら体を起こし、自分の顔を見せないように可那子を抱き寄せた。
そして、絞り出すように呟く。
「…わりい、俺も大概情けねえな…。余裕ねんだわ、ことお前のことに関しては…な」
…ああ、と。
グリムジョーのその言葉で、不安なのは自分だけじゃなかったんだと、可那子もまた理解した。
可那子がグリムジョーを強く抱きしめ返し、しばらくそのまま抱き合った後
「聞くが、可那子…」
グリムジョーがぽつりと言った。
「なあに」
グリムジョーの胸にもたれたまま、可那子は答える。
「現世へ帰りたいとは…思わねえのか」
「…同じ時を生きたいと思う人が虚圏にいるのに?」
少し意外な問いに驚きつつも、可那子は素直な気持ちを返す。
「もちろん、ここに連れて来られたばっかの時は帰りたくて仕方なかったけど…」
可那子は当初を思い出し…そして小さく笑うと、きっぱりと言った。
「今は、思わないよ」
「…確かに、今更だな」
グリムジョーは僅かに自嘲気味な声音で呟き、
「しかし、家族ってやつがお前にもいただろう」
もうひとつ、質問を重ねた。
「…いないよ」
その問いには、可那子はゆっくりと言葉を紡いだ。
可那子に家族と呼べるものはいなかった。
高校に入ったばかりの頃事故で両親をなくし、そんな可那子を引き取ることを渋った親戚はいたが、ひとりで生きて行きますと宣言した瞬間その親戚もいなくなった。
「両親を亡くしてから…あたしには何もなかったの」
可那子は顔を上げ、グリムジョーを見上げる。
「グリムジョーに、出逢うまではね」
グリムジョーは、そんな可那子をしばらく見つめ再び強く抱きしめた。
そしてその唇からは、独り言のように言葉が紡がれる。
「破壊のためだけに産み出された俺が、何かを創り出す気になるとはな…」
「グリムジョー…?」
聞き取りづらくて顔を上げた可那子の唇に、グリムジョーは触れるだけのキスをする。
「家族だろうが兄弟だろうが、お前が失ったもんは全部俺がくれてやる。だから、必ず戻って来い!」
ひどく切なげな表情を浮かべたグリムジョーの、溢れて止めることのできない、想い。
息が止まりそうなほどに強く抱きしめられ、泣き出しそうになるのを可那子は必死でこらえた。
そして、
「…俺は、お前を…っ」
「グリムジョー!」
続けて絞り出されたグリムジョーの言葉を、可那子はその名を呼ぶことで遮った。
「今は、言わないで…。次にこの部屋に帰ってきたら、続きを聞かせて…?」
力の緩められた腕の中から顔を上げた可那子が、こらえきれなかった涙で濡れた瞳でグリムジョーを見つめる。
それでも可那子は、気丈に笑みを浮かべて見せた。
それを見たグリムジョーも、ふ、と小さく笑う。
「ああ、聞かせてやる」
グリムジョーはもう一度その胸に、目の前の愛しい存在を包み込んだ。
そして、囁く。
「…飽きるほど、な…」
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