⑨
夢小説設定
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次の日、グリムジョーが任務で出かけたため可那子はひとり庭のベンチでぼんやりと時を過ごしていた。
とその時、今まで感じたことのない重圧に体を包まれた可那子はびくっと体を震わせ、慌てて立ち上がり振り返った。
そこには優しげな笑みを浮かべた男が立っていた。
「私の霊圧に耐えるとは、さすがだね」
「…藍染、様…?」
可那子は藍染には会ったことがなかったのだが、その口からは自然とその名がこぼれ落ちた。
そしてそれは正解で、そこに立っているのは紛れもなく藍染その人だった。
「なぜ、ここに…?」
戸惑いを隠せない表情で可那子が問うと、
「さっきグリムジョーが来てね、話は聞かせてもらったよ。だけど少し気になってね。私の霊圧くらいには耐えられなければあの方法など到底無理な話だから、それを確かめに来たんだ」
笑みを崩さず、ゆっくりとした口調で藍染は答える。
確かに並の人間ならば存在を保つことさえ危ういかもしれない。
それほどの霊圧を受けて尚、平静を保つ可那子に藍染はとても興味を持った。
「…惜しいね」
藍染は小さく呟き、可那子が聞き返す前に口を開いた。
「可那子…といったね。一度だけでいい、私のものになりなさい」
突拍子もない藍染の言葉に可那子は一瞬面食らいはしたものの、直後には藍染を見上げきっぱりと答える。
「…はい、と答えるとお思いですか?」
「それが条件だと…」
「それが条件だと言うのでしたら、あのお願いはなかったことにして下さって結構です」
藍染の理不尽な言葉も、最後までは言わせない。
「…そうか、じゃあ」
藍染は気配も感じさせず可那子の目の前に一瞬で移動すると、その体を抱きしめた。
「……」
「抵抗しなくていいのかい?無理やり私のものにすることもできるんだよ?」
「男の人の力には敵わないですから…」
抵抗の素振りを見せない可那子に藍染が不思議そうに問いかけると、可那子は静かに答えた。
「けれど、覚えておいて下さい。あたしにだって、藍染様は殺せなくても…自分を殺すくらいは、できるんですよ?」
驚いた藍染が力を緩め可那子の顔を覗き込むと、真っ直ぐに藍染を見て笑みを浮かべた可那子の、その頬には涙が伝った。
「そして、グリムジョーに心を残したあたしは…虚になるんです」
その言葉に藍染は目を見張る。
しかしその後やわらかな笑みを浮かべると
「いいね、強い眼だ。やはりグリムジョーのものにしておくのは惜しいな」
と、可那子の涙を拭った。
「ますます手に入れたいところだが…」
少しだけ困ったような笑みを浮かべた藍染は、
「100%の仕事をするわけじゃないからね。今回は無条件としようか。最善を尽くすよ」
と言い残し、ここに来た時同様、なんの気配も感じさせず消えるように去って行った。
「…はあ…」
藍染の絡みつくような重い霊圧から解放され、可那子は大きく息を吐き出しベンチにへたり込む。
「…グリム、ジョー…」
そして自身を強く抱きしめると、我知らず愛しいその名を呟いていた。
「破壊という死の形を司るグリムジョーの唯一破壊できないもの、か…」
自宮の玉座にゆったりと腰を落ち着けた藍染は小さく呟き、その口もとに笑みを浮かべた。
「藍染が、来たのか」
部屋に戻って来たグリムジョーは、開口一番そう言った。
「…うん」
一言短く返事をした可那子を見つめ、
「何をされた」
グリムジョーはそう訊いた。
「…別に、何も」
「ごまかせると思うなよ」
無理やり笑顔を作った可那子に、グリムジョーが言う。
しかし可那子は笑みを崩さず、きっぱりと答えた。
「ほんとに何も。あたし、藍染様を撃退したんだから」
「撃退?」
「そう。あたしの力でも自分を殺すくらいはできるんですよって」
その言葉に目を見開いたグリムジョーだったが、その後
「ったく…藍染をぶん殴ってやりたいとこだが、お前が大丈夫な程度なら我慢しといてやる」
可那子を抱き寄せそう言いながら、ため息をついた。
可那子は、ばれてるね…と内心苦笑しながら
「あたしの霊圧を確かめに来たって言ってた…。一応合格はできたみたい」
と、グリムジョーの死覇装を握った。
そうか、と呟いたグリムジョーは
「で?どうするんだ」
と可那子に問いかける。
可那子は唇をきゅっと結び少し考える素振りを見せた後、
「今日はあの子たちと…。でも、明日は…」
とグリムジョーを見上げた。
「…ああ、そうだな。連れて来い」
「いいの?」
今夜はグリムジョーと離れ桜介と蘭丸の部屋で過ごそうと思っていた可那子は、驚いて訊き返す。
「お前をそばから離す気はねえからな」
「ありがと、グリムジョー…」
その答えに可那子は嬉しそうにグリムジョーをぎゅ、と抱きしめてから部屋を出て行く。
閉まる扉を見ながら、グリムジョーはソファに腰掛け両手を組み合わせた。
「…はっ、びびってんのか?…この俺が…!?」
ぐしゃっと髪をかき上げ、そのまま体を投げ出した。
運命の日は、明後日――。
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