⑧
夢小説設定
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スタークの一件が落ち着いてきた頃、可那子はグリムジョーに抱かれながらあることを考えるようになっていた。
それは普段でもここ最近はずっと可那子の中を占拠する想いだったが、それがグリムジョーに抱かれている時は殊更に大きく膨らむのだった。
そしてその想いは日増しに大きくなる一方で、そろそろそれは可那子の許容量を超えようとしていた。
そして、この日が訪れる。
ここ最近の可那子の様子がおかしいことに、当然グリムジョーは気付いていた。
可那子を抱いているのに、涙も吐息も温度も違う。
ただ、変わらず可那子はグリムジョーを求め、だからグリムジョーも何も言わず可那子を抱いた。
しかし――…。
「何を泣いてやがる」
「…っ」
可那子を後ろから抱きしめる腕に少し力を込め、グリムジョーは問いかけた。
可那子は僅かに体を震わせたが、眠っているふりをする。
「言えねえのか」
「……」
グリムジョーが重ねて問いかけても、答えない。
しかし、
「…俺には、言えねえことか」
「っ、違…」
小さなため息と共に吐き出された言葉に、可那子は慌てて体を起こした。
「だったら話せ。…お前の温度が違うのはたまらねえ」
可那子の腕を掴み、グリムジョーが可那子を見上げながら言う。
「…温度?」
「違うんだよ、感覚的なもんなんだろうけどな…。しかし少なくとも、お前が何か余計なことを考えてんのは分かる。…だから、話せ」
「グリムジョー…」
スタークに襲われかけた時、可那子は温度やキスの違いからグリムジョーじゃないことに気付いた。
グリムジョーもまた同じような感覚を感じていてくれたことが嬉しかった。
意を決して涙を拭い、可那子は口を開く。
その口もとには、切なげな笑み。
「あたしも、破面になりたいなって…」
「お前…自分が何言ってるか分かってんのか?」
可那子の言葉に驚いて体を起こしたグリムジョーの声には、怒りのようなものが込められていた。
「破面になるってのは死ぬってことなんだぞ?」
そう、人間が破面になるということは、人間としての生を断ち、虚となり、そしてその仮面を破るということ。
そして当然、全ての魂魄が虚となる訳ではないし、破面になれる訳でもない。
「分かってるよ!分かってるから、苦しいの…!」
しかし可那子は、そんなグリムジョーの言葉に間髪入れずに言い返した。
「あたしは、グリムジョーと同じ時間を生きたいの!」
悲痛な叫びと共にこぼれるのは、大粒の涙。
「それ以外望まないのに…!それすら許されなくて…でも、それでもあたしは…っ!」
「もういい!悪かった…」
グリムジョーは、可那子を強く抱きしめた。
可那子の頭を自分の胸に抱き寄せ、頬を寄せる。
そして、髪をなでながら手のひらで可那子の涙を拭った。
しかし可那子の涙は止まらない。
「悪かった…」
グリムジョーはもう一度苦しげに呟いた。
「謝らないで!グリムジョーは悪くない…!」
可那子は首を振るが、グリムジョーのぬくもりでさえ、可那子の涙を止めてやることはできなかった。
しかしそれでも、可那子を抱きしめ髪をなでてやることしか、今のグリムジョーにはできなかった。
やがて、可那子の体から力が抜ける。
泣きじゃくり泣き疲れた可那子に、ようやく眠りが訪れてくれたようだった。
可那子の体を寝かせ、もう一度その頬の涙を拭ってやる。
そしてグリムジョーはしばらく可那子の顔を見つめた後…ベッドから降りて死覇装を羽織ると、部屋を出て行った――。
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