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「…で?真面目な話だ。なんであんなとこにいたんだ」


距離感が狂うほどの巨大な城のような建物の中、連れて来られた部屋。

真っ白な壁に囲まれた殺風景な部屋だった。


所在無げにソファに座る可那子に、グリムジョーと名乗った男は問う。

グリムジョー・ジャガージャック――それが男の名だった。


「あ、あたし…」

ここまで連れて来られてしまったからには逃げ出すことはかなわないと悟った可那子は、しかし未だ怯えながらグリムジョーの問いに答えた。


昔から、人ならざるものもはっきりと見えてしまう体質であること

時折、胸に孔を持つ――グリムジョーが、それが虚だと付け加えた――ものも見かけていたこと

今まではそんなことはなかったのに、今日学校帰りに見かけた虚にさらわれ、気付いたらこの世界にいたこと

気配を消して逃げたと見せかけ、隙をついて必死で逃げ出して来たこと…


可那子の話を聞いたグリムジョーは呆れたようにため息をつき

「ああ、最近流行ってるらしいな…くだらねえ遊びだ」

吐き捨てるように言う。


「遊び…?」

「ああ、最近低級な虚どもの間でいかに強い霊力を持った人間をさらってこれるか争ってんだとよ。その魂魄を喰って力を付けるためにな」

「霊力の強い人間の…魂を、食べる…?」

とんでもないことを耳にしてしまった表情で、可那子は問い返す。


「そうだ。…ああ、説明しといてやる」

グリムジョーはにやりと笑うと、可那子が今置かれている状況について話し出した。


ここは虚圏ウェコムンドといい、虚と呼ばれる堕ちた魂魄の住む世界だということ

虚は人間の魂魄を主食としていること

その中で自分たちは、虚の仮面を破り死神の力を手に入れた破面アランカルという種で、ここ虚夜宮ラス・ノーチェスの中に自宮を持っていること――


「死神!?」

何もかもが理解できず混乱した可那子は、説明を続けるグリムジョーの言葉を遮り声を上げた。


「……」

「あ…ごめんなさい…」

グリムジョーはそんな可那子を黙って見つめ、グリムジョーの気分を害したと思った可那子は縮こまる。


「まぁいい。どうせお前は二度と元の世界には帰れねえんだからな」

「え…それって、どういう…っ!やだ、何を…っ」

ため息をつきながら立ち上がったグリムジョーが、可那子を抱き上げた。

可那子は戸惑い抵抗を見せるが、その体は易々と運ばれベッドに押し倒されてしまう。


そのまま両手首を頭の上でまとめられ、組み敷かれる。


「言ったろ?てめえは今日から俺の女だ」

空いた手で顎を掴みグリムジョーが言うと、

「やだ…やめて、離してよ…っ」

可那子は体をばたつかせ抵抗した。


しかしグリムジョーはそんな可那子の抵抗などものともせず

「うるせえよ。逃げられやしねえんだから大人しくしろ」

言いながら、その唇を自身のそれで強引にふさぐ。


「ん、うぅ…っ」

押さえつけられ、顔を背けることもできないまま可那子は必死に歯を食いしばった。


グリムジョーは一旦唇を離すと、

「お前も舌使えよ。おら、口開けろ」

親指で可那子の口を無理やり開けさせる。


「…噛んだら殺すぞ」

「も、やめ…っ、んぅ…っ」

そして再び、しかし今度は噛みつくように唇を重ねた。

舌を差し込まれて口を閉じることもできず、可那子はただされるがままに口づけを受け入れるしかなかった。


グリムジョーの手が可那子の胸をまさぐる。

「…っ!」

そして可那子がグリムジョーの手を押さえようとするより早く、グリムジョーは可那子の服を一気に引き裂いた。

「いやあぁっ!」

重ねられた唇を無理やり引き剥がし、可那子は叫ぶ。


露わになった白い乳房をグリムジョーは掴み、顔を逸らし抵抗する可那子のその白い首すじに唇を這わせた。

軽く吸い上げると、そこには紅い華が咲く。


と、その時だった。

何かに気付いたグリムジョーは動きを止め、可那子の顔を覗き込んだ。


「…っく…ぅ…っ」

可那子はぽろぽろと涙を流しながら唇をぎゅっとかみしめ、それでも尚洩れてしまう嗚咽を必死にこらえていた。


「…ちっ」

グリムジョーは小さく舌打ちすると体を起こし、手に触れたシーツを可那子の体にばさりとかける。


「グリム、ジョー…?」

それを胸に抱きしめながら可那子は体を起こし、おそるおそる男の名を呼んだ。


「…やめだ。泣いてる女を犯す趣味はねえ」

グリムジョーはぐしゃっと髪をかきあげながら言った後、

「この部屋はてめえにくれてやる。さっさと寝ろ」

そう不機嫌そうに言い残し、部屋を出て行った。





足音が遠ざかる。

白い部屋にひとり残された可那子は、全く自分の理解できない世界に連れて来られてしまった不安とグリムジョーに対する恐怖とで、ただ涙をこぼした。

逃げ出すこともできず、可那子はシーツにくるまって小さくうずくまり眠れない夜を過ごすしかなかったのだった。





一方――。


「…くそっ」

グリムジョーは苛立ちを紛らわすように自室の壁を殴る。


苛立ちの原因を、グリムジョー自身が掴みあぐねていた。

自分を拒絶した可那子に対してなのか、泣こうが喚こうが抱いてしまわなかった自分の甘さに対してなのか…。


ソファにどかっと体を投げ出すと、グリムジョーはその花浅葱色の瞳を閉じた――…。










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