⑤
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「君がそのふたりの面倒を見るつもりなのは分かったが…果たしてグリムジョーがそれを受け入れるかな?」
並んで通路を歩いていると、ザエルアポロがふと足を止めた。
「どうだい?僕に預けてくれればもっと詳しいことが分かるかもしれないよ?」
と、科学者としての表情をのぞかせる。
しかし、
「だめです。実験材料にさせるつもりはないですよ」
怯えて可那子の影に隠れたふたりを庇うように体の向きを変え、可那子はきっぱりと言い切った。
そして
「大丈夫です。グリムジョーは…そんなに悪い人じゃありませんから」
と続け、はにかんだ笑みを浮かべた。
「そうか、そうだね。ずいぶんと…」
すると次の瞬間、ザエルアポロの手が可那子の首もとに伸びた。
「愛されているみたいだしね」
可那子はびくっと身をすくめたが、ザエルアポロの指先は可那子の首すじを何かを確かめるように小さく動いただけだった。
それは、グリムジョーの残した痕。
ザエルアポロが何を見ているかに気付いた可那子は、頬を朱に染め自分の手でそれを隠す。
そんな可那子の反応を見てにこりと笑ったザエルアポロだったが、
「処分に困ったらここに連れてくるといい。悪いようにはしないからね」
しかし科学者らしく最後にそう念を押すことを忘れなかった。
ザエルアポロの宮を出てグリムジョーの宮までの通路を歩いている時、
「あ、そういえば」
可那子は足を止め、ふたりと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「まだ名前聞いてなかったね。あたしは可那子。あなたたちは?」
にこりと笑って問いかけると、ふたりは困ったように顔を見合わせ
「…分かんない。何でここにいるのかも分かんないんだ…」
と、悲しげに瞳を伏せた。
「そっか…何かの拍子に忘れちゃったのかな」
可那子も表情を少し曇らせる。
しかし気を取り直したように笑みを浮かべると
「じゃあ、あたしが名前付けてあげる!いい?」
ふたりの頭にぽんと手を乗せてその顔を覗き込んだ。
固かったふたりの表情がにわかに柔らかくゆるみ、
「うんっ!」
ふたりは声を揃え可那子の胸に飛び込んだ。
そのまま宮に戻ると、グリムジョーの霊圧が感じられた。
さすがに少し緊張しながら、可那子はふたりを連れてグリムジョーのいる部屋へと向かう。
たぶんグリムジョーも、この子たちの霊圧を感じているはず…
そう思いながら部屋まで辿り着くと、案の定グリムジョーは気付いていたようで、可那子が扉を開けるより早く内側からそれは開かれた。
「ただいま…」
可那子はとりあえず声を発してみる。
しかし驚きに見開かれたグリムジョーの視線は、可那子ではなくその両脇に注がれていた。
「…何だ、それは」
可那子の右手、そして左手につながれた小さな手。
紅い髪と蒼い髪を持ち、紅い頭の右上と、蒼い頭の左上に割れた仮面を乗せた、小さな破面がそこにいた。
「この仮面、花の形に似てるでしょ?だからね、この子が
可那子は紅い髪の桜介と蒼い髪の蘭丸の頭をなで、ふたりを抱き上げた。
「いや、んなこと聞いてねえ。何なんだ、それは。どこから連れて来た」
グリムジョーが少しイライラしたようにもう一度同じ問いを繰り返し、可那子も観念したように答える。
「拾った…」
「犬か猫みたいに破面を拾ってくんじゃねえ!」
可那子の答えにグリムジョーが声を荒げると、三人は首をすくめ、しばしの沈黙がその場を支配した。
しかしその間何かを考えていたグリムジョーは深く深くため息を吐いてから諦めたように言う。
「つっても、お前は言うこと聞きゃしねえんだろ」
そして、
「俺は面倒見ねえぞ。邪魔になるようなら追い出す。分かったら、お前が使ってた部屋にでも放り込んどけ!」
背中を向け部屋の中に戻り、ソファにどさっと体を投げ出しながらグリムジョーは言った。
グリムジョーの言葉に、不安げだった可那子の表情がぱっと明るくなる。
「…ありがと、グリムジョー!」
こっちを見ないグリムジョーにお礼を言い、
「じゃあ、部屋に行こう。大丈夫、あなたたちの部屋だからね」
可那子はそのまま部屋を出ようとした。
「…おい」
「え?」
すると、ふとグリムジョーが可那子を呼ぶ。
が、可那子が振り返ってもグリムジョーは何も言わない。
可那子はそっとふたりを降ろし、
「ちょっと、ここで待ってて」
優しく言い、扉を閉めた。
それでも尚こちらも見ず、何も言わないグリムジョーに
「分かってるよ。あたしの部屋は…ここだから。待ってて、すぐ戻るね」
可那子はどこか嬉しそうに笑み、部屋を出た。
虚夜宮に連れて来られた時から、グリムジョーと気持ちを通じるまで使っていた部屋。
ベッドに寝かせてやると、ふたりは不安げな瞳で可那子を見上げその手を握りしめてくる。
何故ここにいるのかも分からない上に、先ほどのグリムジョーの怖さも手伝っては、無理もないことだった。
可那子はそんなふたりに優しく笑いかけ、
「大丈夫。グリムジョーは見た目も口調も怖いけど、悪い人じゃないよ」
ふたりの微妙な表情を見ながら、説得力ないな…と内心で苦笑しつつも、
「もう何も心配しなくていいから…ゆっくりお休み。今日はぐっすり眠って、明日からいっぱい遊ぼう?」
と、続けた。
その言葉に心身ともに疲れていたのだろうふたりは安心したように瞳を閉じる。
可那子はふたりの小さな手を布団の中に納めてやると、その額に優しいキスを落とし、部屋を後にした――。
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