⑤
夢小説設定
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――時間は数時間遡る。
グリムジョーが任務で宮を空けていたため、可那子は庭でのんびりと過ごしていた。
その時、ふと異質な霊圧を感じた。
時折感じる虚の霊圧とは違う、かといってグリムジョーたち破面とも少し違う、異質な霊圧。
宮の外、それも虚夜宮の外に出るのは少し怖かったが、それより好奇心が僅かに勝った。
外につながる扉を押し開け、顔だけを覗かせて霊圧を探ってみる。
「――…!」
案外近くにそれは感じられ、同時に可那子は走り出していた。
駆け寄ったそこには、砂に埋もれかけた二つの塊。
慌てて掘り起こしたそれは、小さな…子供だった。
当然人間の子供じゃないということは、頭に乗った割れた仮面が物語っていた。
ボロ布を僅かに纏い気を失っているふたりを可那子は抱え、とりあえず宮まで戻る。
どうしたものかと逡巡した後、可那子は意を決したように歩き出した。
「何だ、お前。人間が何の用だ」
「あの、お願い…ザエルアポロ様にお会いしたいの…」
可那子が向かった先は、グリムジョーと同じ十刃の、ザエルアポロ・グランツの宮だった。
しかし当然、入口でザエルアポロの
ザエルアポロとは数回会ったことがあった。
といってもグリムジョーの用事に付き合っていただけで、こうしてひとりで会いに来たことはない。
ただザエルアポロは可那子に対し好意的で、その印象があったため可那子は緊張しつつもひとりでここに向かう決心をしたのだった。
「駄目だ、帰れ。人間なんかにザエルアポロ様は会わない」
しかし、ザエルアポロの従属官は取り付く島もなく可那子を追い返そうとする。
と、その時だった。
『彼女は僕のお客様だ。お通ししろ』
どこからともなく声が響き、
「ザエルアポロ様…っ」
従属官は少し恨めしそうに天を仰ぐと
「…こっちだ、ついて来い」
可那子に向かってそう言い、宮の奥へと歩き出した。
通された部屋は、応接室のような部屋だった。
未だ目覚めないふたりを柔らかなソファにそっと寝かせ、その横に所在無げに腰掛けて可那子はザエルアポロを待つ。
「僕の従属官が失礼したね」
そこに声と共に入って来たのは、ピンクの髪をした科学者、ザエルアポロだった。
「いえ、こっちこそ急に訪ねて来てしまってすみません…っ」
可那子は立ち上がり、恐縮して頭を下げる。
「ああ、そんなことはいいんだ。僕もちょうど退屈していたところでね」
掛けたまえ、と可那子に手振りで勧め、ザエルアポロは向かいのソファに腰掛けた。
「なかなか面白いものを連れているじゃないか」
言いながら、ザエルアポロは興味深げな視線を可那子のすぐ横に注いだ。
ザエルアポロ本人を目の前にして緊張のあまり忘れかけていた目的を思い出した可那子は、
「あの、この子たち、大丈夫でしょうか?」
全く要領を得ない質問を繰り出してしまう。
「それは、気を失っていることに対して?それとも、我々に危害を加えるような危険分子ではないか…という意味の質問かな?」
丁寧に問い返され、
「あの、両方…です…」
可那子は恥ずかしそうに俯き、答える。
「その答えは、彼ら自身が示してくれそうだよ」
その時、ふたりの様子を見つめていたザエルアポロが口を開いた。
可那子もぱっとそちらに顔を向ける。
じっとふたりの顔を見つめると、瞼が痙攣しているのが分かった。
「もうすぐ目を覚ますだろうから、初めの質問はクリアだ。そして…」
ザエルアポロの声に、どこか楽しそうな響きが加わる。
「もう一つの質問の答えは、目覚めた時に分かる。危険分子なら、僕がもらうよ。興味深い実験材料だ」
ザエルアポロの霊圧が僅かに上がり、その口もとは笑みの形に歪んでいた。
マッドサイエンティスト――…グリムジョーがザエルアポロを形容した言葉を、可那子は思い出していた。
「う…ん」
その時どちらかの口から声が漏れ、その瞳がうっすらと開かれた。
それに呼応するようにもうひとりの瞳も開かれ、しばらく空をさまよっていた四つの瞳がふと可那子を捉える。
同時にふたりは体を起こそうと身じろぎし、可那子は
「大丈夫?気分悪くない?」
声をかけながらそれを手助けしてやる。
その時、柔らかなソファに埋もれもがくように体を起こしたふたりの首根っこを、立ち上がったザエルアポロが掴み持ち上げた。
「わあっ!」
「はなせ…っ」
ふたりがじたばたと暴れるがそんなことは気にも留めず、ザエルアポロはふたりをまじまじと見つめる。
「あ、あの…」
可那子が心配そうに手を差し伸べ、ふたりも自分たちをつまみ上げる目の前の乱暴な男よりはと、可那子に救いを求めるように小さな手を伸ばした時
「ふうん、なるほどね」
何かに納得したように呟いたザエルアポロがその手を離した。
「あぶな…っ」
可那子がかろうじてふたりを抱き止めると、ふたりも可那子にしがみつく。
「僕の見解を言わせてもらおうか」
その様子を見ながらソファに深々と座り直した科学者は、ゆっくりと得意げに話し出した。
ふたりは藍染の作った破面ではなく、つまり未完…成体ではないということ
以前からいたのか生まれたばかりなのかは分からないが、子供とは言え人型をしているということは、元は恐らくヴァストローデ級であると考えられること
ただ霊圧が安定しておらず、これからどんな風に変化していくかは分からないということ…
藍染や破面についてそんなに詳しくは知らない可那子にとって理解できない言葉もあったが、
「とりあえず、危険分子ではないということですよね…」
と安心したように言い、ふたりの頭をなでた。
「どんな風に変化するか分からない…という僕の言葉を聞いていたかい?」
呆れたように言うザエルアポロにも、
「大丈夫です、悪い子たちには見えませんから。今の時点でこの子たちが排除の対象じゃないということが分かれば、それでいいんです」
と、にこりと笑って答える。
更に続けられた、
「それに、未完…ということは、決して成体の破面の皆さんを脅かすものではない、ということでしょう?」
という言葉にザエルアポロは肩をすくめ、それ以上は何も言わなかった。
「ありがとうございました。じゃあ、あたし帰りますね」
ふたりの手を握り可那子が立ち上がると、ふたりもそれに素直に従う。
「お役に立てたなら光栄だよ。送ろう。僕の従属官がまた悪さをしないとも限らないからね」
一緒に立ち上がったザエルアポロが、レディーファーストよろしく部屋の扉を開けながら恭しく頭を下げた。