優しい誕生日
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連れて来られたのは、雨乾堂だった。
浮竹の他は可那子以外立ち入ることの許されていないその部屋は、火鉢のおかげでとても暖かい。
しかし可那子はその部屋に入ることもためらった。
「ふたりきりで過ごせなかったことを怒っているのかい?」
「…っ、いいえ、十四郎様に気を遣わせてしまって…そう訊かせてしまった自己嫌悪、です」
肩に回された手に触れながら可那子は俯き、ぽつりと言う。
「お付き合いが大切なのは分かってるんです。いつまでも子供で…わがままで、ごめんなさい」
すると、
「子供?そんなことないさ」
そう言った浮竹の手に力が込められた。
もう片方の手を可那子のあごに添えて上向かせると、そのまま唇を重ねる。
突然の行為に驚いたものの、その愛しい口づけに可那子は応えた。
舌を絡め深く口づけると、重なった唇の隙間から甘い吐息がこぼれる。
浮竹はその吐息さえも奪うようなキスをした。
ようやく唇が離れ小さく息を吐く可那子の耳もとで、浮竹は囁く。
「…ほら、可那子はもう大人のキスができるようになってるだろう?」
「もう、そんなこと言わないで下さい…っ」
言われた可那子は瞬間的に頬を染め、浮竹の胸もとに顔を埋めた。
「はは、可那子はやっぱりかわいいな」
浮竹は可那子の髪を撫でた後、
「さ、本当に風邪をひいてしまうから」
と部屋へ入るよう促した。
火鉢にあたると、冷え切った体が少しずつ温まって行く。
「可那子」
横に座った浮竹が可那子を呼び、そちらを見た可那子に両手を伸ばす。
「おいで」
優しく笑む浮竹の胸に頬を朱に染めた可那子は体を預け、ふたりはそのまましばらく抱き合った。
その後、後ろ向きに抱えられた可那子の目の前にひとつの包みが差し出される。
「ありがたく受け取らせてもらうよ」
「これ…よく分かりましたね」
それはふたりきりで過ごせないと分かった時に、みんなからの浮竹へのプレゼントをまとめた場所に一緒に置いておいた可那子からのプレゼントだった。
「それはもちろん、可那子からのプレゼントだからね」
得意気な浮竹の言葉にくすっと笑ってから可那子は
「でも、直接渡さなくてごめんなさい」
と俯いた。
「いや…俺はもっと可那子の気持ちをちゃんと考えなくちゃいけなかったな」
浮竹は可那子をぎゅっと抱きしめる。
「何よりも大切なのに、これじゃ恋人失格だ」
「!…そんなことっ」
可那子は浮竹のその言葉に身じろぎした。
慌てて振り返って浮竹を見つめ、
「そんなこと言わないで下さい…。あたしは、今こうしていられるだけで本当はすごく幸せなんですから…」
言いながら、首に腕を回す。
「愛してます、十四郎様…」
「俺も愛しているよ、可那子」
改めてお互いの気持ちを確かめ、ふたりは更に強く抱き合うのだった――。
おそらく今頃広間では、主役がいないことに皆気付いているだろう。
そして同時に、可那子がいないことにも。
だからどうか、今は誰も邪魔しないでくれ…。
そんな祈りにも似た気持ちで浮竹は、自分の下で甘く啼く愛しい恋人に優しい口づけを落とした――。
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