一番欲しいもの
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「可那子、最近遊びに来ませんね」
ぽりぽりとお菓子を食べながら壺府が言う。
当然だろう、あんなことがあったんだ――
そんなことを人ごとのように考える自分に気付き、自己嫌悪に陥る。
「静かでいいじゃねえか」
「もう、阿近さんてば…」
苦笑いを抑えながらこんぺいとうをつまみ、壺府の声を無視して俺は部屋を出た。
自分のラボに戻り、やりかけの研究に手をつける。
しかしキーボードで情報を打ち込むも、画面が示すのはエラーの文字。
「…ちっ」
舌打ちして、打ち込んだデータを消す。
もう一度…と動かした腕が、というよりは体が、びくっと震えた。
部屋の外に感じる霊圧。
扉が開く。
ラボに入って来たのは、可那子だった。
しかし俺は振り返らない。
…振り返れない。
「どうした」
それでもひと言だけしぼり出すと、
「阿近、さん…」
「…っ!?」
直後、俺は後ろから抱きしめられていた。
「何、を…っ」
あまりに突然の行動に俺はかなり動揺した。
そこに発せられた可那子の言葉。
「抱いて、下さい…」
「…!自分が何言ってるか、分かってんのか…?」
俺は自分を必死に落ち着かせようとした。
しかし、
「分かって、る」
「分かってねえだろ!!それに、体だけ抱いたってうれしくもなんとも…っ」
可那子の腕をほどいて椅子を回転させる。
思わず声を荒げた俺に、しかし可那子は困ったように笑い、俺の言葉を遮った。
「こないだは、体だけ抱こうとしたくせに?」
「っ、あれは…マジで悪かったと思ってる…」
先日の最低な行為を指摘され、それ以上何も言えなくなる。
「ううん、でもそれはもういいの」
すると、今度はふふ、と優しく笑った可那子がもう一度俺を抱きしめた。
「分かったの、あたし…なんで失恋するたび阿近さんとこ来てたのか…」
紡がれる言葉。
「阿近さんに、『俺にしとけ』って言って欲しかったんだ、って」
だから、と言った後可那子は一旦言葉を切り、体を起こした。
「だから体だけじゃなくて心ももらってほしくて…でも、もう諦めちゃった…?」
「――…!」
なんなんだよ、こいつは…!
今すぐ…めちゃくちゃに抱きてえ――…!
自分の中に一気に膨れ上がる感情を、俺は必死に抑えた。
「…んな簡単に諦められるくらいなら…」
俺はゆっくりと立ち上がった。
「とっくの昔に諦めてるさ」
壊さないように、優しく、今度は俺が可那子を抱きしめる。
「阿近さん…」
安心したように俺の名を呼んだ可那子の腕が、俺の体に回される。
一番欲しかったものが、今自分の腕の中にある。
ガラでもねえ…が、幸せだ、と素直に思えた。
あごを持ち上げて上向かせ、身を屈める。
「もう泣かせねえ…ごめんな」
言って、何か答えようとした可那子の唇に自分のそれを重ねた。
→おまけ。