不意打ちバースデー
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今日の行き先は、
懐に忍ばせたそれを渡すのは今しかない!と思ったあたしは、何度も深呼吸をしてから、思いきってマユリ様を呼んだ。
「ああああのっ涅隊長!…って、あれ?」
だけどその時にはもうマユリ様はそこにはいなくて、
「何してる!次はこっちだヨ!」
隣の部屋に続く扉の前から怒鳴られた。
「はいっ!」
あたしは慌ててマユリ様の元へ走った。
「ここだ。入りたまえ」
なぜかここにきて、マユリ様はあたしを先にその部屋に入るように勧める。
おそるおそる扉を開けたあたしは、その先の光景に息を呑んだ。
そこは、もちろん虚夜宮の中の一部屋。
だけど天井は吹き抜けになっていて、虚圏の真っ暗な夜空を利用しながら、けれど満天の星が輝いていた。
今にもこぼれ落ちそうな程の星、星、星…!
どこか違う世界に迷い込んだような気分になる。
「すごい!…綺麗…」
あたしは素直に感動して声を上げた。
そして、答えの分かり切ってる質問をしてしまう。
「どうしたんですか?この部屋…」
「私が作ったんだヨ、当然だろう」
やっぱり、当然の答えが返された。
そう、ほんとに聞きたかったのはそれじゃなくて。
「何故、こんなものを…?」
迷惑がられるかもしれないけど、続けざまに質問をした。
「本当は三日後に連れてくる予定だったんだヨ。しかしその日は生憎都合が悪くなってしまってネ。そうしたらお前が行きたいと言い出したから、ちょっと早いが…」
嫌な顔をしないで答えてくれたマユリ様の言葉に、あたしは思い出していた。
三日後は、あたし自身の誕生日だということを。
「え!?じゃあこれ、あたしのために…?」
「うるさいヨ!話の邪魔をするんじゃない!」
「…スミマセン…」
話を遮ってしまって、怒られた。
黙ったあたしに向かって、マユリ様はフンと勝ち誇ったように言葉を続けた。
「アメとムチと言うだろう。脳みそが足りない割には頑張っていたからネ、ご褒美だヨ」
相変わらずの毒舌。
でも、それでもマユリ様があたしの為にプレゼントを用意してくれたことが本当に嬉しくて。
「ありがとうございますっ!」
あたしはお礼を言い、勢いよく頭を下げた。
「で?何だネ?」
「え?」
すると、突然マユリ様に問いかけられた。
顔を上げたあたしが問い返すと、
「さっきから、私に何か言いたいことがあるんじゃないのかネ?」
今度は分かり易く質問を繰り返してくれた。
その質問に、あたしはますます嬉しくなった。
気付いていてくれたんですね、マユリ様!
「隊長、お誕生日おめでとうございます!」
あたしは懐から小さな包みを取り出し、マユリ様に差し出した。
「……」
「隊長…?」
すると、マユリ様はあたしの手に乗ったそれをじっと見つめたまま沈黙した。
でもあたしが声をかけると、はっとしたようにそれを受け取ってくれた。
「何だネ?」
「お誕生日プレゼントです」
「そんなことは分かってるヨ!」
また怒られ、あたしは何を聞かれたか理解した。
「隊長のお気に召すかは分かりませんが…」
「いや、いいヨ。後で開けさせてもらおう。とにかく、ありがたく受け取っておくとしようかネ」
なぜかマユリ様はあたしの言葉を遮ったけど、それを自分の懐にしまってくれたから、もうそれだけであたしには充分だった。
それなのに。
「この際だからついでにこれも渡しておくヨ」
マユリ様は、その部屋の隅にある棚からリボンの掛けられた箱を取り出した。
「ほら」
「え、これ、もしかして…?」
「特製の栄養ドリンクだヨ。死にそうな程に疲れた体にも元気を取り戻してくれる優れものだ。味はりんご味だヨ」
正真正銘、マユリ様からの誕生日プレゼントだった。
部屋一杯の星たちと、リボンの掛けられたプレゼント。
息が止まりそうな程の幸せ。
こんな贅沢な時間、もう二度と来ないかもしれない。
あたしは、図々しくお願いしちゃうことにした。
「あの、隊長…隊長のこと、マユリ様って…呼んでいいですか?」
マユリ様は一瞬だけ驚いたような表情になったけど、
「…勝手にすればいいヨ。呼び方なんてどうでもいい」
ふいと視線を逸らすと、ぶっきらぼうにそう答えてくれた。
「ありがとうございます!」
あたしはもう一度、勢いよく頭を下げた。
その顔を上げると、マユリ様がしかめっ面でじっとあたしを見ていた。
「全く…ウスノロな娘がもう一人増えたみたいだヨ」
そう呟いて、ため息をつく。
やっぱり毒舌。
でも知ってるんだ。
マユリ様は、ネムちゃんにきちんと愛情を持ってるってこと。
だから、それでも…娘でも嬉しい。
阿近さん、一歩前進ですよ!
今ならきっと、怒鳴り声すらも愛の囁きに聞こえてしまうかも!
なんて、そんな思いに浸っていたら
「何してる、ウスノロ!本当に置いて帰るヨ!」
自分だけさっさと帰り支度をして
あたしはやっぱり嬉しくなって、こみあげる笑いを必死で抑えながらマユリ様の元へ駆け出した。
帰ったらこのプレゼントのリボンで、ネムちゃんとお揃いの髪飾りを作ろう、なんて考えながら。
(11,3,30)
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