僕の望み、君の望み
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夜風が縁側に座る可那子の髪を巻き込み通り過ぎていく。
その日、夜になってもイヅルは帰ってこなかった。
『何かあったのかな…どうしよう…』
イヅルが帰って来ていないということよりも、帰って来れない何かがイヅルの身に起こったんじゃないかということが可那子には心配だった。
戌の刻を過ぎ、亥の上刻を過ぎ、下刻をまわった頃…可那子はふと思い出したように庭に立つと、空を見上げて呟いた。
「イヅル…誕生日、おめでと…」
「…ありがとう」
「!」
直後、背後から聞こえた声に可那子は驚いて振り返る。
そこには、申し訳なさそうな顔をしたイヅルの姿があった。
「イヅル!」
「ごめん、可那子…!檜佐木さんたちがどうしても…って、いや、そんなことはどうでもよくて…ほんとにごめん!言い訳はしないよ…」
焦ったイヅルが、早口で謝る。
しかし、可那子が驚いたのは一瞬だった。
「よかった…イヅルの身に何かあったんじゃないかって心配したんだよ…」
イヅルの姿を確認した可那子は、その顔に安堵の表情を浮かべた。
そして
「分かってる。イヅルは理由もなく約束破ったりしないもん。お仕事お疲れ様」
と、にこりと笑って見せた。
「ほんとにごめん…」
そんな可那子を見つめながらイヅルはもう一度謝り、
「誕生日おめでとう、可那子…」
間に合ったかな?と時間を気にしつつお祝いの言葉を口にした。
「ありがと」
可那子もその言葉を嬉しそうに受け取った。
「ねぇ可那子…今年の誕生日プレゼント、実は何も持ってきてないんだ。今年は可那子の望むものをあげたいって思ったから」
イヅルがそう言うと、
「あたしは、イヅルがこうして誕生日に帰ってきてくれるだけでいい…」
可那子はそう答えて微笑む。
しかしイヅルはそんな可那子の顔を覗き込むと、優しく言った。
「可那子の嘘…見抜けない僕じゃないよ?」
一瞬驚いたように目を見開き…そしてうつむいてしまった可那子を、イヅルは何も言わず優しい眼差しで見つめていた。
そのうち、ぽつりと可那子がつぶやく。
「だってイヅルは忙しいもん…逢いたいなんて、わがまま…言ったりしちゃいけないって…」
「そっか、可那子はもっと僕に逢いたいって思ってくれてたんだね」
思わず本音がこぼれ、イヅルの言葉にはっと口を押さえる。
「言って?可那子のその願いを叶えてあげる。それが、僕からの誕生日プレゼント」
イヅルは嬉しそうに言う。
「イヅル…」
「ね?可那子…」
戸惑う可那子に向かって、イヅルは両手を広げた。
「…っ」
イヅルの優しさに、可那子の両の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
「イヅルと…っ、もっと、一緒にいたいよ…っ!」
直後、今まで抑えてきた本当の望みを口にした可那子はイヅルのその腕の中に飛び込み、イヅルはしっかりと可那子を抱きしめた。
「結婚しよう、可那子…」
可那子をしっかりと抱きしめながら、イヅルが告げる。
「もっと逢いたくてもっと一緒にいたいと思ってるのは、可那子だけじゃないってことだよ」
「イヅル…?」
イヅルの言葉に、可那子は少しだけ驚いて顔を上げた。
「僕が求めるのと同じように、可那子が僕との絆を求めてくれたら…言おうと思ってたんだ」
可那子と目が合うと、イヅルは照れながら、しかしはっきりと自分の想いを口にした。
「返事は今じゃなくてもいいんだ。ただ、僕の気持ちを可那子には知っておいて…って、可那子?」
可那子はあふれる涙を隠すように強くイヅルに抱きつき、消え入りそうな声で答えた。
「、嬉しい…」
それを聞いたイヅルは、優しく囁く。
「近くに部屋を借りよう。僕は毎日、可那子のいる場所に帰るよ…」
新しく交わされた約束は、永遠の誓い。
これからはいつでも、そしていつまでも…
一緒にいようね――…
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