求められた役割
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部屋に響いていたふたりの荒い息遣いが落ち着いてきた頃、剣八が身じろぎしその腕が可那子の体に回された。
「あ…申し訳ありません、夕餉の支度を…」
心地よい疲れに包まれてうとうとし始めてしまっていた可那子が、はっと気付き慌てた声を上げる。
「あの…剣八様…?」
しかし腕をほどこうとしない剣八の様子に、戸惑ったようにその名を呼んだ。
「まだ、ここにいろ」
言いながら剣八は、可那子の体ごとごろりと横になる。
「けれど…」
「ごちゃごちゃうるせえぞ。俺の誕生日だ。文句は言わせねえ」
可那子が何か言いかけるが、剣八はその腕を緩めない。
しかしそれでも可那子は悲しげに言葉を紡いだ。
「けれどそうしないと私は…私は剣八様のお傍にいる資格がなくなってしまいます…」
「…あのなあ」
可那子の言葉を聞き、脱力したように腕をほどいた剣八は呆れた声で呟きながら体を起こした。
可那子も慌てて体を起こす。
「もう何十年勘違いする気か知れねえが」
剣八はぐしゃっと髪をかき上げながら言う。
「言っとくが、俺はただ家事ができてヤるだけの女としてお前を流魂街から連れて来たわけじゃねえからな」
この言葉が、何も望まずただ剣八のためだけに生きて来た可那子の中に浸透するのに、少しの時間が必要だった。
「特別だと…勘違いしてしまいますよ…?」
やがて、可那子の口が小さく言葉を紡ぐ。
その頬には涙が伝った。
「勝手にすりゃいいだろ。俺は特別じゃねえと言った覚えはないがな」
「…特別だと、言われた覚えもありませんけどね…」
しかし返された剣八の言葉に、可那子は今度は泣き笑いで返す。
「うるせえよ」
剣八はぶっきらぼうに可那子を抱き寄せた。
その腕の中で可那子は、この上ない幸せを感じていた。
「いつまでも…可那子は、剣八様のものです。これからもずっと、お傍においてくださいね…」
そっと剣八の背に腕を回し、可那子は小さく囁く。
「お誕生日、おめでとうございます」
それに応えてかどうか、可那子を抱きしめる剣八の腕に、力が込められた。
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