ぎりぎりバレンタイン
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今日はバレンタインデー。
可愛らしくラッピングされた小さな包みを大事そうに胸に抱えた可那子は、パタパタと廊下を走っていた。
目指すは十番隊隊首室。
大好きな幼なじみで十番隊隊長でもある、日番谷冬獅郎にチョコレートを渡すために。
毎年クリスマスやバレンタイン、誕生日が訪れるたび、それに乗じて気持ちを伝えたいと思うのに勇気が出ず、ただ日番谷に彼女ができてしまわないことを祈るだけの日々だった。
そんな毎日に別れを告げるべく、今回こそ、今年のバレンタインこそは気持ちを伝えようと思っていた。
当たって砕けるのなら仕方ないと思った。
気持ちを伝えないで後悔するのだけはいやだったから。
廊下の角を曲がると、隊首室の扉が見える。
と、そこで可那子の足が止まった。
心臓が大きく脈打つ。
「桃…」
隊首室から出て来たのは、もう一人の幼なじみであり五番隊副隊長の雛森桃。
同じ幼なじみではあるが、恐らく今一番日番谷に近いのはこの雛森だと可那子は感じていた。
「桃も、チョコ渡しに来てたのかな…」
一番隊第五席の自分とは違い、ふたりは隊長と副隊長。
何かと会う機会も多いだろうし、何より雛森は可愛い。
自分の容姿に自信のない可那子は、最近は雛森に会うたび劣等感のようなものを感じるようになっていた。
「…っ」
可那子は踵を返し、その場から離れた。
そしてその日は一日、日番谷を雛森を避け続けた。
ふたりが全く悪くないことなんて分かりきっていた。
ただ、自分が会いたくなかっただけで。
日番谷に、自分と雛森を比べられたくなくて。
すっかり陽も落ち、夜の帳があたりを包み込んだ。
もうすぐ今日が終わってしまう、と可那子は焦り、そして後悔する。
一番隊隊舎の屋根の上。
可那子はうずくまり、ため息をついた。
「…馬鹿野郎、風邪ひくぞ」
その時、声と共に背後に現れたのは日番谷だった。
「冬獅郎!どうしたの?一番隊に用事?」
あからさまに避けていたわけじゃない。
何気なさを装って、可那子は笑顔を繕う。
「…ああ、お前に相談したいことがあってな」
一瞬の間の後、日番谷は答えた。
「あたしに、相談…?」
日番谷の意外な言葉に可那子は驚くが、日番谷は前置きもなく話し出した。
「今日が何の日かお前も知ってるよな」
「…っ」
可那子の心臓が大きく脈打つ。
「実は一番もらいたいヤツからまだもらえてねえんだ」
「え?だって、も…」
その日番谷の言葉に雛森が頭に浮かんだが、その名前を口に出すことがためらわれ、可那子は口をつぐんだ。
それに反応して日番谷は一旦言葉を切ったが、ふと目を逸らし、続ける。
「そいつは幼なじみでな、実際のところそいつも…って自惚れてたんだが…」
「…それ、って…」
可那子の言葉の続きを待たず、日番谷は更に続けた。
「でもまあ、今日は朝から俺のこと避けてたみたいだから…そういう場合大人しく諦めた方がいいのか聞きたくてな」
「桃…じゃ、ないんだ…」
答える代わりに可那子はつぶやく。
「なんで今雛森が…って、ああそうか、それで…」
しかし日番谷はその可那子の言葉で全て理解したようだった。
そして
「俺が好きなのはお前だ。そのことは雛森も知ってる。――って、なんでバレンタインに男から告白しなきゃなんねえんだ」
そう言いながら、可那子をぐいっと抱き寄せる。
「冬獅郎…」
夢にまで見た、大好きな日番谷からの言葉に涙がこぼれた。
「たく、泣かせるために告白したんじゃねえんだぞ」
ぶっきら棒に言いながらもその手は優しく可那子の涙を拭う。
「あたしも…っあたしも、冬獅郎が好き…」
「分かってるから。早くよこせよ」
泣きじゃくりながら言う可那子に冬獅郎は照れくさそうに言い、手を差し出した。
一瞬驚いたようにその手を見た可那子は、次の瞬間には吹き出していた。
「あはは、もう偉そうなんだから…はい、これ」
脇に置いていた布袋からそれを取り出し、冬獅郎に差し出す。
「泣いたり笑ったり忙しいヤツ」
呆れたように言いながら受け取った日番谷だったが、その後
「…でもありがとな、可那子」
言葉と共に、優しい笑みを浮かべた。
→あの時の日番谷と雛森。
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