素直になってみれば
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『縁日見て来ていいですか?』
その時、義骸の修兵が修兵に聞いた。
「ああ、気を付けろよ」
修兵が許可すると、義骸のふたりは楽しそうに縁日で賑わう方へ歩いて行く。
とても穏やかな瞳でふたりを見送る修兵に、可那子は見とれた。
『ああ、あたしやっぱり…副隊長が好き…!』
強い想いがこみ上げてくる。
「おい、可那子…なんて顔して…」
振り返った修兵が、自分を見つめる可那子を見て驚く。
真っ直ぐで、でも下手に触れたら壊れてしまいそうな。
「副隊長…」
可那子は、ほとんど無意識に言葉を紡いだ。
「あたしがずっと副隊長を好きだったって…知ってましたか…?」
修兵はわずかに驚いた様子を見せたが、
「…そうなんじゃないかって、期待はしてた。…俺は、ずっとお前を見てたからな」
可那子のまっすぐな瞳に応えるように自分の気持ちを告げた。
しかし、その修兵の言葉に可那子は驚きを隠せず
「嘘…!だって副隊長は…」
信じられないといった風に言い返すが、
「乱菊さんを好きなのに?」
「…っ」
その続きを修兵に奪われ、言葉を失う。
「…お前がそう思ってるってことは分かってた。あの浴衣も…」
修兵は可那子が着ていた浴衣の柄を思い出しながら言った。
「…気付いてたんですか。あの浴衣を本当は誰にもらったのか…」
「ああ、やっぱそうか。雛森が好みそうな柄じゃないとは思ったんだ。乱菊さんを意識してんだなと思って…気付かないふりしたんだけどな」
困ったように笑う可那子に修兵は少し言いづらそうに答えた後
「ま、俺にはどっちがくれたもんでも関係なかったけどな」
と付け加え、優しく笑った。
「……」
全てを見透かされていた恥ずかしさと、それでも自分を気遣ってくれる修兵の優しさに可那子は何も言えず、ただ目の前の大好きな人を見つめていた。
「そろそろ分かったか?」
「…っ!」
修兵は可那子の腕を掴み自分の方へ引き寄せると、
「…俺が今まで誰を見てきたか」
そのまま可那子の小さな体を抱きしめる。
「副隊長…」
夢のようで信じられなくて、でもこの修兵の温かさは確かに現実で…涙が出そうだった。
「…可那子」
抱きしめる腕を少し緩めると、それに気付いて顔を上げた可那子に修兵が言う。
「…呼べよ、名前」
「え…」
戸惑う可那子に、もう一度言う。
「呼べよ…修兵、だ」
「…修兵、さん…」
呼び捨てにはできない可那子だったが、それでも修兵には充分だった。
求めていたのは、修兵も同じだったから。
「…それでいい。好きだ、可那子…」
「修…」
修兵はそのまま身を屈めて可那子に触れるだけの優しい口づけを落とし、
「あ…っ」
直後、その体を抱えるように強く抱きしめた。
つま先が地面から離れそうになり、可那子は修兵の死覇装の背中を握りしめる。
「修兵、さん…?」
そのまま何も言わない修兵に可那子が遠慮がちに問いかけると、
「もう、離さねぇぞ…可那子…」
返って来たのは、狂おしげに紡がれた言葉。
愛しいその名を呼ぶ、修兵の声。
「修兵さん…私も、私も離れません…」
言いながら、可那子も修兵を強く抱きしめたかった…が。
「けど…っ、あの、離して、下さ…」
続いた可那子の言葉に修兵は驚いてその腕を緩め、可那子を見た。
「苦し…、かったんです…すみません…」
呼吸が楽になり、は…と息をつきながら言う可那子だったが、修兵の視線を受け最後は消え入りそうな声になる。
修兵はそんな可那子をしばらく見つめた後、
「ムードのない奴」
ふは、と笑いながら言うと
「あ、あの…」
と、申し訳なさそうに縮こまる可那子の頭にぽんと手を乗せ
「いや、俺が悪かった。次抱く時はもうちょい手加減するからよ」
意味深な言葉を吐く。
そして、そう言いながらにやりと笑う修兵を見つめる可那子は、見る間に耳まで真っ赤になった。
「修兵さん…っ!」
「まぁ気にすんな。とりあえず座ろうぜ。あいつらももうすぐ戻るだろ」
抗議の言葉を発しようとする可那子に喋らせまいと、修兵が石段の方を指しながら言った。
「……」
可那子は小さくため息をつきながらも結局は何も言えず、大人しく修兵に従う。
並んで石段に腰掛け、義骸のふたりが戻るのを待った。
その時、ふと可那子が口を開いた。
「でも修兵さん…気付いていたなら、早く誤解を解いてくれてもよかったと思うんですけど…」
「…!」
可那子のもっともな質問に修兵は一瞬言葉に詰まると、
「…お前、阿近と仲いいだろ?しょっちゅう技術開発局行ってるもんな。…それが『期待はしてたが気持ちを伝える踏ん切りが付かなかった理由』だ」
照れくさそうに答える。
「阿近さん…ですか?」
しかし可那子は、修兵の言いたいことがいまいち理解できなかった。
「…お前、意外と鈍いのな…つまり、だ」
修兵はくしゃくしゃと髪をかき上げ、
「お前が俺は乱菊さんが好きだと勘違いしてたみたいに、俺は、お前が阿近をどう思ってるのか気になってたってことだ」
言いながら、照れ隠しのためか多少乱暴に可那子を抱き寄せる。
「分かれ。ここまで言わせんな、馬鹿野郎…」
「、すみません…」
今修兵がどんな顔をしているのかと想像すると、小さく謝りながらも可那子は頬が勝手に緩んでしまうのを抑えられなかった。
「修兵さん…大好きです…」
可那子はそっと修兵の背中に腕を回し、小さく囁く。
そして修兵はその言葉に応えるように、可那子を抱きしめる腕に力を込めた――。
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