素直になってみれば
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「檜佐木副隊長!縁日に行きましょう!」
現世に入り、尸魂界が用意してくれたアパートに到着直後、可那子は修兵にそう提案した。
「縁日?」
「はい!阿近さんが教えてくれたんです。この時期の現世には縁日っていうのがあって、出店とかも出て楽しいらしいんです」
問い返す修兵に、可那子は義骸を受け取る時阿近が教えてくれた話を思い出しながら答える。
「…まぁいいか。着いて早々仕事って気分にもならんしな」
少し考えた後そう答えた修兵に、
「じゃあ支度してきますね!」
そう言うと可那子は自分の部屋に戻り、持って来た荷物を広げた。
「お待たせしました」
「!…お前、その格好…」
身支度を整え、修兵が待つ居間へやって来た可那子の姿を見て、修兵は息を飲んだ。
薄紫地に艶やかな華がプリントされたその浴衣は、普段の可那子には少し大人っぽいイメージだが、アップにした髪とうなじ、そして普段はしない化粧をした今の可那子にはよく似合っていた。
「…雛森副隊長が譲ってくれたんです…あの、おかしいですか?」
まじまじと見られて、可那子は恥ずかしそうに言う。
「…いや…よく、似合ってると思うぜ」
修兵もつられて、照れくさそうに頭をかきながら目を逸らす。
「ありがとうございます」
はにかみながら可那子は答え、
「副隊長も、似合ってますよ…」
普段見ない修兵の私服姿にどきどきしながら、それでも平静を装い言葉を続ける。
「その義骸」
「…義骸?」
可那子の言葉を聞き、修兵は訝しげに問い返しながら鏡に向かう。
そこには、髪は短いものの傷も刺青もない昔の修兵が映っていた。
「…なんだこりゃ?」
「傷のない副隊長が見たかったんです…だから、阿近さんにお願いしちゃいました」
可那子が、修兵の反応を見ながら申し訳なさそうに言うが、
「そうか…なんか懐かしい顔を見たな。これはこれで悪くねぇ」
鏡の中の自分を見ながら言う修兵がその義骸を思いのほか気に入ってくれたようで、可那子もほっと胸をなでおろした。
縁日は、かなりの人出で賑わっていた。
「副隊長ー!」
修兵より少し先から、可那子が呼ぶ。
そこへ向かおうとして、逆方向へ歩く人と肩がぶつかる。
「あ、すいません」
その人に向かってぺこりと頭を下げ、再び前を向いた修兵の視界に可那子の姿はなかった。
小柄な可那子のこと、人ごみに紛れてしまったのだろうと容易に想像できた修兵は、軽く神経を集中させ可那子の霊圧を探る。
人を避けながら、しかし迷うことなく可那子の元に向かうと、予想通り可那子は人ごみに紛れその中から抜け出せずに困っていた。
「大丈夫か?こっち来い」
修兵は可那子の腕を掴んで人ごみの中から助け出す。
「それにしてもすげえ人だな。まぁはぐれても霊圧で探せるがそれも面倒だ。だから」
「副隊長、帰っちゃうんですか?」
ため息を吐きながら言う修兵の言葉を最後まで聞かず、可那子が焦りながら問う。
「置いて帰りゃしねぇよ。はぐれても困るから、離れんなっつってんだ」
言いながら、可那子の手を取る。
「あ、あああの、副隊長…っ」
瞬間的に真っ赤になり動揺しまくりの可那子の様子を見た修兵は、小さく笑うと
「手つなぐの恥ずかしかったら、この辺掴んどけ」
と自分のシャツの裾を掴ませた。
「はい…」
少しほっとしながら、可那子はシャツを握る指に少し力を込めた。
「あ、それからな」
歩き出そうとした修兵が突然足を止める。
危うく修兵の背中に顔をぶつけそうになりながら可那子も立ち止まり、少し横にずれて修兵を見上げた。
「副隊長って呼ぶのはナシだ」
「え?」
「…周りの視線が痛ぇ。こっちでは普段そういう呼び方をしねぇからな」
きょとんとする可那子に、修兵が答える。
「そうなんですか…では、檜佐木さん、と?」
「ああ、それでいい…ま、名前でもいいんだけどな」
「めっそうもないですっ!」
「はは、言うと思った。よし、じゃあ行くぞ」
修兵は笑いながら、今度こそ歩き出した。
人と人の間をすり抜けながら、ふたりはとりどりの出店を見て回った。
履き慣れない下駄で歩き回った可那子の足が疲れて来た頃、
「ちょっと休むか」
修兵が切り出した。
人出で賑わう境内の裏手に回り石段に腰掛けると、可那子はほっと息をついた。
「疲れたか?」
目の前に立ち問いかけてくる修兵を、可那子はじっと見つめた。
「なんだよ、人の顔じっと見て」
「いえ、あの…やっぱり傷も刺青もないと、副隊長じゃないみたいですね」
「自分で頼んだくせにか?」
言いながら修兵はふ、と笑う。
可那子の胸がとくん、と脈打った。
その笑顔に見入ってしまう。
「まったく…仕方ねぇな」
言いながら、修兵はポケットから取り出した義魂丸を口に放り込んだ。
義骸から修兵が抜ける。
「…副隊長?」
その行動に呆気に取られている可那子に向かい、
「…これでいいんだろ?」
少し照れくさそうに言う。
左頬のラインと69の刺青。
そして顔の右側を縦に走る3本の傷…。
「はい、やっぱり副隊長はこうじゃないと…って感じですね」
安心したように、可那子が微笑む。
「ところで可那子、いいのか?」
「え?」
「今は誰もいないからいいが、はたから見たらお前、一人で喋ってる変なヤツってことに…」
嬉しそうに修兵を見つめる可那子に向かい、修兵はにやっと笑いながら言う。
そう、死神の姿は人には見えない。
修兵の言葉を聞きながら、可那子は慌てて義魂丸を口に放り込んだ。