唇から微熱
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
はっきりとしない意識の中、可那子は見慣れない天井を見上げていた。
からりと障子が開く。
「お、気が付いたか」
聞き慣れた声の主は、九番隊副隊長・檜佐木修兵。
見知らぬ部屋で、布団に寝かされている自分。
自分は、檜佐木副隊長と共に外回りから帰って来たところではなかったか…。
可那子の脳が、それらを理解した。
「檜佐木副隊長…っ」
当然次の脳からの命令は、その体を跳ね起こすこと。
しかし体がその命令に付いて来てくれず、可那子の上半身はぐらついた。
「馬鹿、無理すんな」
修兵が慌ててその体を支える。
「熱出して倒れたの、覚えてないのか?」
「申し訳ありません…」
「いや謝んなくていいけどよ、あれだ、具合の悪い時は遠慮しねぇでそう言え」
可那子の体をもう一度横たえながら修兵は優しく言い、
「それに、まだ熱さがってねぇだろ」
可那子の額に手を乗せると
「ほら、まだ熱いじゃねぇか」
小さくため息をつく。
と、その直後。
「お、おい…可那子…?」
「副隊長の手、冷たくて気持ちいですね…」
可那子は修兵の手を熱い手で握ると、気持ち良さそうに目を閉じた。
修兵はそんな可那子をしばらく見つめていたが…ふと可那子の手の下から自分の手を引き抜いた。
「あ、私…すみません…」
いきなり手を掴んだりしたことで修兵が怒ったと思ったのか、可那子は申し訳なさそうな表情になる。
しかし修兵はそんなことは気にした風もなく、逆に可那子の手を掴むと身を屈めた。
「副…」
言いかけた可那子の唇にキスをする。
可那子は驚いてはいたが、抵抗はしなかった。
しかしそのまま修兵がもっと深いキスを求めた時、可那子の体がわずかに震え…それを感じ取った修兵は
「わりぃ…!」
慌てて身を起こした。
そして
「あ、いや…なんだ、つい…」
支離滅裂に言葉を発する修兵を見て、可那子もふらりと体を起こした。
「おい、無理すんなって…」
可那子の体を支えようとする修兵を見つめると、
「つい、出来心…ですか?」
可那子は小さく問いかけた。
直後、可那子の背中に添えた修兵の手の温度が、わずかに上がる。
修兵は可那子から目を逸らし、ぼそっと呟いた。
「…そんなんじゃねぇよ…」
「…え?」
「だから…そんなんじゃねぇ!」
しかし可那子に聞き返され、可那子を半ば強引に抱き寄せると、もう一度同じセリフを繰り返す。
そして可那子の頭に頬を寄せると、
「…好きだ」
真剣な声で可那子への気持ちを口にした。
「副隊長…」
「…今は見んじゃねぇ」
照れた修兵は、顔を上げようとする可那子の頭を押さえつける。
夢のようで信じられなくて、でもこの温かさは確かに夢じゃなくて。
「私も、副隊長が好きです…」
顔を上げない代わりに、可那子は修兵の体に腕を回した。
「可那子…」
「今は、顔見ちゃだめです」
笑みを含んだ可那子の声に修兵も笑みを浮かべ、
「それはきけねぇな」
可那子の顎に手を添えて顔を上げさせた。
ふたりの視線が絡み合い、その距離が自然と近くなる。
「副隊長…」
「名前で呼んでもいいんだぜ?」
「それは…、…ん…っ」
可那子が言い淀むうちに、その唇が重なった。
「それは、追々ってことでお願いします…」
唇が離れた後可那子がそう言うと、
「ま、気長に待つか」
修兵は可那子の頭を優しく撫でた。
しかし
「それより、風邪うつしちゃったらすみません…」
可那子が申し訳なさそうに続けた言葉に、修兵はにやりと笑う。
「そうだな、じゃあ…名前呼べたら許してやるよ」
そんな修兵がとても愛しく、だけど少しだけ困ったように、
「…努力します…」
小さく笑みながら、可那子は答えるのだった。
(11,1,8)
1/1ページ