勝負の行方
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「分かってるよぉ」
苦笑いで親友を見送った京楽の表情は、その後切なげな笑みへと変わる。
「触れることさえこんなに怖いってのに…」
京楽は呟きながら微かに震える指先で可那子の頬にそっと触れ、
「ボクに何ができるっていうんだい…?」
独り言ち、ちびりと酒を呑む。
明日はお互いに非番。
そういう時にしか可那子は挑戦状を出さない。
それが分かっているから、京楽も無理に可那子を起こしたりはしない。
優しく頭を撫で、静かに眠る可那子をただ見つめる。
そのうち規則正しい寝息に眠気を誘発された京楽も、壁にもたれ眠ってしまった。
明け方まで営業しているこの呑み屋の営業終了時刻が近付いた頃、京楽がふと目を覚ますと、その膝には眠る前と変わらない心地よい重みが感じられた。
「…可那子ちゃん」
起こすのは忍びないと思いながらも仕方なく、京楽は可那子を呼ぶ。
「ぅん…」
少しの間の後、気だるげに可那子が目を覚ました。
そのまま何度か目を瞬かせ視線を上に向けると、見えるはずの天井は見えず…自分を見下ろす京楽と視線がぶつかった。
「――っ!!」
声にならない叫びを上げながら可那子は慌てて体を起こし、
「申し訳ありませんっ!」
と頭を下げた。
「ああ、そんなこと気にしなくていいよぉ」
と京楽はさらりと答えにこりと笑った後、
「それより、勝負はボクの勝ち。だから、ボクのいうことをひとつ…きいてもらうよ?」
と、少しだけ真剣な瞳を可那子に向けた。
「はい…」
可那子もまた真摯な表情で答える。
京楽が何を求めてくるのか、可那子には全く想像がつかなかった。
だから、
「今日だけでいいんだ。可那子ちゃんの今日を…ボクにくれないかな?」
「…え?」
京楽の言葉を聞いた可那子は小さく聞き返すことしかできず、ただその胸だけがどくんと脈打った。
「実は、今日はボクの誕生日なんだ。少しだけわがまま言わせて欲しいんだけど…だめかなぁ?」
照れたように笑う京楽の言葉にはっと我に返った可那子は、自分の巾着から大事そうに小さな包みを取り出し、
「存じてます…。京楽隊長、お誕生日おめでとうございます」
と、はにかみながらそれを手渡した。
京楽は、手渡されたその包みを見つめたまま言葉を失った。
「隊長…?」
黙ってしまった京楽に可那子が不安そうに声をかけると、
「聞いてもいいかな?」
と、手元に視線を落としたまま、京楽が問いかける。
「ボクにきいてほしかったことは…何だい?」
可那子は恥ずかしそうに頬を染め、小さく答えた。
「…あたしも、同じ…です」
その答えに顔を上げた京楽は、
「可那子ちゃんの口から、ちゃんと聞かせてほしいな」
と優しく笑う。
少しだけ戸惑ったような表情を浮かべた可那子だったが、その後意を決したように口を開き、
「一日だけでいいんです、京楽隊長のお誕生日の今日を、私に…ください!」
と言い切ると、自分の膝を握りしめ、うつむいた。
その可那子の耳に、京楽の遠慮がちな声が届く。
「今、すごく君を抱きしめたいんだけど…いいかな?」
その言葉に驚いて顔を上げると、そこには照れたように笑う京楽がいた。
ますます頬を染めた可那子がこくんと頷くと、ふわりと優しく京楽の腕に包まれる。
ずっとずっと恋焦がれてきた京楽に抱きしめられ、涙が出そうな程の幸せを感じながら、可那子もまた遠慮がちに京楽の体に腕を回した。
「可那子ちゃん…」
京楽は腕に少し力を込めた。
「大切にするから…泣かせるようなことは絶対にしないから…、ボクの恋人に…なってくれないかな…?」
その言葉に涙があふれ、
「はい…」
と可那子が震える声で返事をすると、京楽が驚いたように顔を覗きこむ。
「泣かせないっていったそばから…」
焦ったように言いながら京楽がその涙を拭うと、
「いいんです、これは…うれし涙ですから…」
可那子はそっと笑って見せた。
その笑みに吸い寄せられるように京楽は身を屈め、可那子の唇に触れるだけの優しい口づけをした。
そして驚きのあまり声も出ない可那子をもう一度抱きしめると、その耳もとに囁く。
「挑戦状はもう、必要ないね…」
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