勝負の行方
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今日こそは勝ってみせる!と意気込んで、少女は隊首室の前に立つ。
「十三番隊五席――…」
「開いてるよー」
名乗りを上げようとした彼女の出鼻をくじくように、中からのんびりとした声が被せられた。
「…失礼します」
名乗ることを諦め、少女は静かに扉を開けた。
「や、可那子ちゃん。いらっしゃい」
声の主はこちらに背を向けたソファから腕だけを覗かせ、その手をひらひらと振って見せた。
「京楽隊長、またさぼってたんですね…」
少女を可那子と呼んだのは、護廷十三隊八番隊隊長・京楽春水だった。
そして少女の名は蔵本可那子。
同十三番隊に所属し、その席次は第五席。
「いやだなぁ、可那子ちゃん。仕事が終わったからここでこうして休んでいるんじゃないか」
いつもののんびりとした口調で、おそらく酒の入っているであろう瓢箪を掲げてにこりと笑って見せる京楽に、
「ついさっきですよ?仕事終わりの時間は…」
と、呆れたように可那子が突っ込む。
すると京楽はゆっくりと体を起こしながら、
「まぁま、細かいことは言いっこなしでさ。そんな可那子ちゃんも仕事終わり直後にボクを誘いに来てくれたんじゃないのかな?」
と可那子に向かって片手を差し出さした。
その京楽の言葉に可那子は、はっとここへ来た目的を思い出し、死覇装の懐から慌ててある物を取り出した。
「今日こそ勝ってみせますからっ!!」
宣言しながらそれを京楽の手に乗せると、
「受けて立つよ」
と京楽は楽しげに答えた。
『挑戦状』と、それには書かれていた。
可那子から京楽に勝負を挑むもので、しかし勝負といってもそれは剣ではなく、呑み比べだった。
そもそもの発端は、十三番隊の呑み会に乱入して来た京楽と息が合った可那子が呑み比べをし、それに可那子が負けたことから。
それ以来可那子は幾度となく京楽に挑戦状を叩き付けては悉く返り討ちにあっている。
「今日は誰に判定を頼もうか?」
いつもと何ら変わらない挑戦状に楽しげに目を通しながら京楽が問いかけると、
「今日は俺が引き受けよう」
可那子の後ろから、聞き慣れた声がその問いに応えた。
無謀な挑戦を可那子が一方的に続けるふたりの勝負は、可那子たちの周辺では既に名物のようになっている。
それを皆面白がり、誰かしらが勝負の判定のためと称してはふたりの戦いを見守っていた。
そして今日の勝負は可那子にとっていつも以上に負けられない戦いだった。
何故なら今日は7月10日で、明日は京楽の誕生日だから。
初めて京楽と呑み比べをするずっと以前から、可那子は京楽に想いを寄せていた。
そしてその想いは今も変わることなく、今はこうして時々呑みに行ったりもするようになり少しは近付けたが、逆に近付いたせいでもっと近付きたいという欲が出てしまい…
でも一度近付いてしまった以上、今さら距離を取ることも出来ず…
苦しくて苦しくてどうしようもなくなってしまった可那子は、可那子の様子がおかしいことにいち早く気付いて声をかけてくれた十三番隊隊長・浮竹十四郎に全てを打ち明けたのだった。
「浮竹隊長!?」
突然の登場に驚きを隠せない可那子に、浮竹はにこりと笑って見せる。
可那子は浮竹に京楽に対する自分の想いの全てを打ち明けたが、それは決して協力を願うものでも、今後自分がどうしたらよいかと相談するものでもなかった。
ただ、誰にも言えなかった自分の気持ちを聞いて欲しかっただけなんですと、聞いて下さってありがとうございましたと可那子は笑った。
彼女が弱音を吐くようなら、自分が護ってやるからと抱きしめてしまっていたかもしれなかった。
しかし可那子はまっすぐに京楽だけを想っていて、それを思い知らされた浮竹は、その手につかみ損ねた心の行き着く先を見届けたいと思った。
そしてこの日、京楽の誕生日の前日に挑戦状をしたためる可那子の様子に決意めいたものを感じ取った浮竹は、こっそりと可那子の後に着いてここまでやって来たのだった。
勝負の判定を隊長にやらせる訳にはと可那子は恐縮したが、当の本人は自ら志願したわけだし、京楽も何ら気にする風もなく
「そうか、よろしく頼むよ…っと、じゃ早速出かけようか」
とにこりと笑いながら立ち上がり、並んで歩く両隊長に挟まれる格好でいつもの呑み屋へと向かった。
まずはお互いの猪口に酒を注ぎ合い、かちりとぶつける。
それが勝負開始の合図だった。
京楽がその動作に移ろうとした時、勝負を始める前に…と前置きし、可那子は京楽をまっすぐに見据えた。
そして
「今日あたしが勝ったら、あたしのいうことひとつだけきいてもらいますから!!」
と言い放つと京楽の持つ猪口に自分のそれをかちんとぶつけ、一息に呑み干す。
ひゅう、と口笛を吹いた京楽も自分の猪口の酒をくいと呑むと、徳利を可那子に差し出しながら
「それは、ボクが勝ったら可那子ちゃんもボクのいうこときいてくれるってことでいいんだよね?」
と問いかけた。
「…!」
考えてみれば至極当然の切り返しに動揺した可那子は注いでもらった酒を危うくこぼしそうになりながらも、ご返杯と今度は京楽の猪口に酒を注ぎつつ
「それで結構です。…聞けるものであれば、ですけど…」
と少し不安そうに答えた。
「うん、それは可那子ちゃん次第だね」
そんな可那子を見つめた京楽は、意味ありげに笑いながらまたひと口、酒を呑んだ。
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