愛し愛されるということ
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私は、今日初めて狛村隊長の卍解を見た。
『黒縄天譴明王』――。
その霊圧に私自身も押し潰されそうになりながら。
そもそも何故今、狛村隊長が卍解しているのか。
隊長が戦っている相手の霊圧は、十一番隊・更木隊長のもので。
隊長同士が戦う理由なんて私には分からないけれど、おそらくは今尸魂界を騒がせている旅禍…が関係しているんじゃないかと予想はできる。
私は、護廷十三隊七番隊第七席・蔵本可那子。
入隊した時から狛村隊長が好き。
以前一度見てしまったから、私は狛村隊長が人ではない事を知っている。
だけど、人とか狼とかなんて関係ない。
そんなことじゃ私の気持ちは揺らがなかった。
あの方の一本筋の通った考え方、懐の大きさに惹かれ…愛してしまったんだから。
その大好きな隊長の為に、七席程度の実力では何の手助けにもなれないのが悔しくてもどかしくて、その凄まじい霊圧にただ圧倒されていた。
結局、藍染隊長・市丸隊長・東仙隊長の出奔という結果になってしまった今回の旅禍騒動で、狛村隊長は心にも体にも大きな傷を負ってしまった。
東仙隊長は、狛村隊長の親友だと伺っていたから。
それなのに隊長は、次の日も執務室で机に向かっていた。
「何してるんですか、狛村隊長!今日ぐらいは休んでください!」
一番乗りかと思って入った執務室に隊長の姿があるのを見て、驚いた私は声を上げてしまった。
だけど隊長は真面目な顔で言う。
「そういう訳にはいかん。儂は隊長だ。それに、この程度の怪我で休んでおったら他の隊士に示しがつかんだろう」
「この程度、じゃないじゃないですか!昨日もろくに四番隊の治療も受けずに戻っていらして…!」
「それは、朽木隊長たちの方がひどい怪我をしていたから…」
「本当に!」
隊長があまりにも自分を労わってくれないものだから、私は思わず隊長の言葉を遮ってしまった。
「心配したんですよ…?」
感情が昂ぶって、涙がこみ上げる。
「蔵本…」
私の名を呼びガタンと席を立った隊長の口から、優しく言葉が紡がれる。
「すまなかった…」
その言葉に、私は涙をこらえきれなくなってしまった。
「お、おい…蔵本…」
ぽろぽろと涙を流す私を見て少し戸惑っていた隊長は、その直後、机を回りこんで…ではなく自分の執務机をひょいとどかして、私の目の前に立った。
どっしりした机を難なく動かした力とその意外な行動に驚いて、私の涙は止まってくれた。
だけど
「大丈夫か?本当にすまなかった…」
大きな体を屈め、涙に濡れた頬を大きな手で拭ってくれる隊長の手も声もやっぱり優しすぎて、止まってくれたと思った涙がまた溢れ出した。
もう鉄笠をかぶることはなくなった狛村隊長の輝く金色の瞳が、私をまっすぐに見つめている。
その瞳に魅入られ、私の中でずっと抑えていた想いがどうしようもなく溢れ出し…
「狛村隊長…!」
私は、隊長の大きな体に飛び込んだ。
「蔵本…!?」
隊長は私の突然の行動に驚きつつも、よろめきもせず私を受け止めてくれた。
「隊長、私…っ」
私は隊長を見上げ、叫ぶように隊長を呼んだ。
なのに隊長は、
「駄目だ蔵本!それ以上言ってはならん!」
私の肩に手を置き、私の言葉を遮った。
「何故ですか!?私、私は…」
それでも負けじと声を上げる私に
「儂は、人ではないのだぞ…?」
隊長は苦しげにそう言った。
その言葉を聞いた私は、隊長が私の言葉を遮った理由を知り…ほっとした。
何故なら、そんなことはどうでもいいことだったから。
「…それは理由にはなりません」
だから私は、隊長の羽織を握り締めたまま笑って見せた。
「蔵本…?」
驚いて私を見る隊長に、
「だって私は、隊長が人であろうと狼であろうと関係なく、隊長が好きなんですから」
今度は遮られないことを祈りつつ自分の気持ちを告げ、もう一度笑って見せる。
私がそう言っても隊長はやっぱり戸惑ってるみたいで、
「儂は…誰かを愛するということをとうの昔にやめてしまったんだ」
私の肩に手を置いたまま、やっぱりどこか苦しげに言う。
どうしたらこの気持ち、隊長に伝わるんだろう?
でも私には、自分の気持ちを真っ直ぐに伝えることしかできなかったから。
「では、私を愛してください。大丈夫です、私がちゃんと思い出させてあげます…人を愛すること、愛されることの幸せを…!」
どうか伝わって…!
祈るような気持ちで、私は隊長を見上げた。
「蔵本…」
隊長と、視線がぶつかる。
「隊長、…っ」
隊長はその場に膝をつき、その広い胸に私をすっぽりと包み込むように抱きしめてくれた。
「大好きです、狛村隊長…」
だから私も精一杯腕を伸ばして隊長を抱きしめ、初めて触れるふわりとした隊長の毛を撫でてみる。
柔らかくて、とても暖かい。
嬉しくて、幸せで、また涙が出そうだった。
「どうか、どうか名前を…可那子、と呼んでくださいませんか…」
私はずっと願ってやまなかった望みを口にしていた。
「望みは、それだけか…?」
隊長がもう一度問いかけてくる。
「いいえ!いいえ…名前を呼んで…私を、愛して下さい…っ!」
だから私も、もう一度答える。
「善処しよう、可那子…」
そう言ってくれた隊長の腕に、もう少しだけ、どこか遠慮がちに力が加わったのを感じた…。
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