オフレコ
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荒川真澄が何者かに撃たれ亡くなった日、パーティーのメンバーはサバイバーに集まっていた。
しかし敬愛する親をあまりにも突然失った一番は見ていて痛々しいほどに憔悴していて、皆声をかけることもできず様子を見守っていた。
そこに鳴り響くスマートフォンの着信音。
「鳴ってるよ、電話」
趙に促されてようやく、一番はスマホをポケットから取り出した。
皆に背を向け電話に出るその後ろ姿を見つめていた可那子の頬を、涙が静かに伝う。
趙にハンカチを差し出されて初めて自分が泣いていることに気付き焦る可那子。
「やだ、なんで…ごめん、止まんない…」
慌てて手で拭うが涙は止まってくれず、可那子はごめん、と小さく残し店を出た。
近所の空き地のベンチに腰かけ、それでも止まらない涙を拭っていると、草を踏む音が耳に届いた。
目を向けると、そこにいたのは趙だった。
軽く手を上げてから可那子に近付き、平気?と顔をのぞきこむ。
「うん、ごめん…なんかほんと、自分が弱くていやになっちゃう」
可那子はそんな趙の視線から逃れるようにうつむき自嘲気味に笑った。
「なんで?弱くなんかないと思うよ?」
そうかけられた趙の言葉にも顔を上げないまま首を振ると、それを見た趙は小さく息を吐いてから口を開いた。
「可那子ちゃんはさ、俺のためにも怒って泣いてくれたよね?」
「だってあれは悔しかったの、馬淵さんが天ちゃんの想いをちっとも分かってくれなくて…!」
少し前に異人町を出て行ったはずの、横浜流氓の参謀だった男。
どんなに憎くても殺したくはないと、趙は最後通牒を突き付けたもののあとは本人の意思に任せる形で別れを告げたのだった。
「そう、そうやって自分のことのように怒ったり哀しんだり喜んだり楽しんだりさ。春日君にも通じるような…それって優しさだと思うんだよね。人間力の強さ、とでもいうのかな」
趙がいつもの軽い口調で言いながら可那子の隣に座る。
しかしそれでも自分を認めてやれない可那子は、そんな趙に向かってでも、と後ろ向きな単語を発しながら顔を上げた。
――その瞬間だった。
「…っ、」
視界を埋め尽くすように近付けられた趙の顔に驚くと同時に、軽く触れた唇に言葉を遮られていた。
「自分を卑下するのはそこまで」
趙はいつになく真剣味を含んだ声で言う。
「もちろん優しさと弱さをはき違えちゃいけないとは思うよ。でも可那子ちゃんのは間違いなく優しさなんだよ」
そしてそう言い切ったあと、困ったように笑って続ける。
「端から見たらくだらないだろうけど、俺らは立場とか状況とかで泣いていいよって言われても泣くわけにはいかなくてさ。だからそんな時に代わりに泣いてくれる人がいるって…やっぱかなり救われるんだよね」
「天ちゃん…」
「だからもう少し自信持っていいよ。そうしないと可那子ちゃん自身がかわいそう。んでこれからもさ、俺らを…俺を、癒してよ」
「うん…、ありがと、天ちゃん…」
その声に少し元気が戻ったのを感じ、趙はいつもの軽い口調に戻って言う。
「さて、説教はおしまい。さっきの電話星野会長の呼び出しだったみたいだから、とりあえず店に戻ろうか」
と歩き出してすぐに足を止めた。
振り返るとどうしたのと見上げる可那子と目が合い、ばつが悪そうに小さく呟く。
「みんなに怒られそうだからさ、さっきのはオフレコで頼むね」
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