初めての恋
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街を歩いていた俺は、ふと誰かに呼ばれたような気がして足を止めた。
「――…ブン太」
やっぱり気のせいじゃない。
聞きなれない、だけどどこか懐かしい声。
一瞬頭にひらめく、一日たりとも忘れたことない人物の顔。
いや、そんなことありえないだろぃ。
だけどすぐに打ち消す。
あれからもう――5年も経ってるんだ。
なのに体はそいつを探すように勝手に首を巡らせる。
「――…!!」
ありえないと思ったのに。
「久しぶり、ブン太」
そこに立っていたのは、可那子だった。
永遠に失ったと思っていた、俺の初恋の――…。
「まさか…マジで可那子なのか?」
「うん、ちゃんと足もあるよ」
信じられない思いの俺に可那子は冗談ぽく言って笑う。
「帰ってきちゃったよ、恥ずかしながら。たったひとつ思い残したことが強すぎたみたいで」
「思い残したこと…?」
すると、訊き返した俺に可那子は真剣な瞳を向けた。
「私、ブン太が好き」
この時、言葉を失った俺はどんな顔をしていたんだろう。
目の前に可那子がいるという現実にさえ動揺していた俺の頭の中は真っ白だった。
何も考えられない。
「これが私の思い残したこと。ごめんね、びっくりしたよね。でもやっぱいくら優勝できなかったからって気持ち伝えないまま死んだら絶対成仏できないと思って…」
言いながら照れたように笑う可那子。
「ちょ、ブン太っ!?」
結果、頭より先に体が動いていた。
人目なんか全く気になんねえよ。
この5年間一度も俺の中から出て行かなかった可那子を、俺はめいっぱい抱きしめていた。
「ずっと両想いだったんじゃねえか」
「うん。…だから言えなかった。私のことなんて忘れてほしくて、だから全部話したの」
「あの時俺が気持ちを伝えなかったらどうしてた?」
「たぶん…何も変わらなかったと思う」
「そっか、そうだよな。あの時お前はもう自分の気持ちは伝えないって決めてたんだもんな」
「うん、こんなに後悔するなんて思わなかったからね」
「結果的に俺の所へ戻って来てくれたけどな」
「そうだね、予想外。まさかブン太が今も私のこと好きでいてくれるなんて」
「忘れちゃいけないなんて思ったことねえよ。ただ忘れられなかっただけ。ああ、でも信じることはやめたくねえってずっと思ってた」
「……」
「どうした、可那子?」
「ばかだよ、ブン太。私はあの時、ブン太をフったのに…」
「かもな。だけどもうどうでもいい、そんなこと。今お前がここにいる。それが全て」
「ブン太…」
「好きだぜ、可那子。もう離さねえ」
「うん、私も。大好きだよ、ブン太!」
丸井ブン太、二十歳。
立海大2年、彼女いない歴に終止符を打ったばかり。
告白されることは日常茶飯事なのに彼女をつくらない俺は実はホモであるとか、年下もしくは年上趣味であるとか、そんな噂も飛び交い始めていた。
だから…そんな俺に彼女ができたってことも、学校中に広まるのに半日とかからなかった。
「はあ参った参った。全く、こういう大事なことはもっと早く教えといてもらわんと困るぜよ」
「全くだ。実は俺たちだって昨夜っつーか深夜に聞いたばっかだってのに、根掘り葉掘り訊かれて大変だったんだぜ」
「はは、悪いな。しっかし俺はお前らに連絡したのが一番だったのに…まあ多分誰か見てたんだろうな、人も多かったし」
講義が終わり、俺のところへ来るまでに俺の代わりに質問攻めにされ疲労困憊の雅治とジャッカルに軽く謝り、俺たちは今日は講義がなかった比呂士の待つカフェへと向かった。
中学の頃からずっと一緒のこいつらには話しておきたくて。
こいつらもよく知る、俺の彼女のことを。
(21,1,2)
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