あの日と同じキスを
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
屋上で雅治に告白された日から、ひと月ほどが過ぎていた。
雅治は何も言ってこない。
あの日以前と変わらない、雅治のまま。
だけどあたしは、雅治のことばっかり気になってた。
ふたりきりになるって考えると、緊張してしまって屋上にも行けなくて。
雅治のこと、好きなのかなって思うこともあった。
でもそのうち今までできていた普段通り…目を合わせることすらできなくなって…。
もうどうしたらいいか分からなくなっていたある日のことだった。
週番だったあたしは、放課後の教室で日誌を書いていた。
「…何かあったんか?」
「…!」
突然の声に体がびくっと震えて、シャーペンの芯が折れた。
「雅治…」
声だけで分かるその人の名前を口にしたら、顔が熱くなるのが分かった。
夕日が赤くてよかった…。
そんなことを思うあたしを、雅治は教室の入口から動かずに見ていた。
夕日の赤に美しく映える銀の髪。
触れたい、と思ったら…胸の奥がぎゅっと痛くなった。
その場所から、ずっと訊きたかった疑問がこぼれ出る。
「雅治は…あたしのこと、もうどうでもよくなっちゃった?」
訊いてから気付いた。
ああ、あたし…不安だったのか。
「何を…言ってるぜよ。やっぱり何か…」
「何もないよ!ないから…不安で。あたし、雅治のことばっか考えてて…好きなのかなって、でも…っ」
その時、はじめは遠慮がちに数歩踏み出していた雅治が駆け出して…
「可那子…っ」
あたしを抱きしめた。
「じゃあもう、遠慮せんでいいんじゃな…?」
安心したような雅治の声。
「雅治…」
「俺からは言えんかった。お前さんが…可那子が俺を好きんなれんなら、それは仕方ないとな」
その時ようやくあたしは、不安だったのは自分だけじゃなかったんだと理解できた。
「好きになれなかったら…諦めちゃってた?」
「まぁ当分の間は無理だったろうけどな。けどもうその選択肢はなくなったぜよ。そうじゃろ?可那子…」
見上げたあたしに、雅治が確かめるように言う。
うん、と小さく答えると同時に降ってきたのは、優しくて気持ちいい…あの日と同じキスだった。
(21,1,2)
2/2ページ