幼馴染
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「ったく、また来たのか」
「だってここに来ないと徹ちゃんに会えないもん」
「ここはお前みたいな女子高生がひとりで来るような場所じゃねんだよ」
ゲームセンターシャルルのスタッフルームで東はあからさまにため息をつき、年下の幼馴染、可那子に向かって呆れたように言う。
数年前に極道になったことをきっかけに地元から離れた東。
その時に音信も途絶えてしまっていたが、可那子はどうしても諦めきれず噂だけを頼りに必死に東を捜していた。
そしてひと月ほど前にようやく神室町で東を見つけ、諦められなかった理由を告げたのだった。
小さな頃からずっと、東が好きだったと。
「いい加減帰れよ」
「やだ、もう少しいていいでしょ」
「……」
東はもう一度深くため息を吐き出した後、ぽつりと問いかけた。
「なあ、そんなに俺が好きなのか」
「うん、好き」
「そうか。だったら脱げよ、抱いてやるから」
え、と小さく訊き返す可那子を見ないまま、がちゃりとわざと音を立てながら入り口のドアの鍵をかける。
「徹ちゃん…?」
「ああ、ゴムがねえけど…まあ外に出すからいいだろ?」
言いながら棚から下ろしたティッシュの箱をテーブルの上に放り投げた。
「なんだまだ脱いでねえのかよ、着たままでいんならそれでもいいけど…制服シワんなるぞ?」
突然の東の言動が理解できずついていけない可那子だったが、隣に座った東の言葉にはっと我に返る。
「や…っ!」
抱き寄せられいきなり太ももに触れられて、可那子は慌ててその手を押さえた。
「なんだよ、大好きな徹ちゃんに抱いてもらえるんだからもっと喜べよ」
「やだ、こんなの徹ちゃんじゃない…っ」
耳もとで囁かれ、その近付いた体を可那子は突き放した。
「だったらどんなのが俺だよ」
「徹ちゃんは、もっと優しいもん…」
「はっ、極道に優しさとか求めてんじゃねえよ」
東は嘲るように笑う。
その表情を見た可那子は悲しげに顔を歪め、
「…っ、もういい!徹ちゃんなんて大キライ!」
言い捨てて鞄を掴み、そこから飛び出して行った。
「好きの次は大嫌いかよ、忙しい奴」
は、と笑う東。
可那子が飛び出して行く時に転がり落ちた煙草を拾い上げ、一本取り出して口にくわえる。
「…追いかけなくていいんすか?」
その時、開け放たれたままの入り口から東の舎弟でもある店員が遠慮がちに声をかけた。
「ほっとけよ」
「でも可那子ちゃん、ちょっとヤバそうなのと一緒に出て行きましたよ…」
「…っ、あの、馬鹿…!」
それを聞いた直後、くわえた煙草を握り潰し東は走り出していた。
「…馬鹿は東さん、だよなぁ…」
店員の男はため息をつきながら、その後ろ姿を見送った。
シャルルを飛び出した東は、軒並み『満室』のホテルの横を走り抜ける。
可那子たちが入って満室になったかもしれないという可能性は無意識に頭から追い出した。
「何、してんだ」
赤レンガの方まで走ってようやくその姿を見付け、肩を抱かれて今にもそこに入って行きそうな可那子の腕を掴んだ。
「徹ちゃ…、なんで…」
「なんだよてめえ!可那子ちゃんをふったんだったら大人しく引っ込んどけよ!」
不意を突かれた男が凄むが、あ?と苛立ちにまかせて睨み付ける東の迫力に瞬間的に覇気を削がれる。
そのまま後ずさり、覚えてろ!と捨て台詞を残して逃げ出して行った。
その後ろ姿を見ながら乱れた息を整える。
と同時に感じた腕が引かれる感覚に、ようやく東は可那子の腕を掴んだままだったことを思い出した。
「離してよ…」
「駄目だ」
「徹ちゃんには…もう、関係ないじゃん…」
「幼馴染なんだ、ほっとくわけにはいかねえだろ」
うつむいたまま悲しげに言う可那子に東が答えると、
「幼馴染、ね…あんなことしようとしたくせに」
可那子の声にわずかに怒りがこもる。
「あれはお前をびびらすためだ、本気じゃねえよ」
それを感じ取った東はひとつため息をつき、分かってくれよ、と諭すように言う。
「俺は極道、ヤクザなんだ。お前には真っ当に生きてほしい…自分をもっと大事にしてほしいんだよ」
「分かってないのは徹ちゃんだよ」
「え?」
「だってあたしはあたしが一番大事だもん。だから徹ちゃんに迷惑がられても、自分の気持ち押し付けた…」
可那子がしおらしく言うが、それを聞いた東はそういう意味じゃねえよ、とふはっと笑う。
「そうじゃねえかと思ってたが、やっぱ馬鹿だな」
「ひどいっ!」
途端に膨れる可那子だったが、東はそんな可那子の頭にぽんと手を置く。
「…けど、降参だ」
「徹ちゃん…?」
「昔はただ可愛い妹くらいの感覚だったのに…8年か、長いのか短いのか、すっかり女に成長しやがって」
「いい女に?」
「……」
「…ごめん」
「いや、まあそうだな…気の強いとこは変わんねえが、想像以上にはいい女になってて…」
そこで東は困ったように笑う。
「正直戸惑ってる」
「それはあたしのこと好きってこと?」
「そうとは言ってねえ」
可那子がすかさず訊くと、東も負けじと即答する。
しかし膨れっ面になる可那子の表情を眺めて笑い、でも、と続けた。
「徹ちゃ…っ、」
「他の男にはやれねえわ」
言われた可那子の体は、東の胸に抱きしめられていた。
(19,7,20)
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