ひとりの男として
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
30日、可那子が戻ったのは亥の上刻を過ぎた頃だった。
もうすぐ門に辿り着く辺りで輿の外がざわつき、何事かと思う間もなく従者が報告する。
「可那子様、門前に人が」
「人?」
その声があまり緊張した様子ではなかったため、可那子も輿の御簾を上げ顔をのぞかせる。
「…、兄様…!?」
目を凝らすと、確かにそれは白哉の姿だった。
正式な訪問ならば失礼のないようにしなければと思う従者たちだったが、すぐに色々察した大人たちは可那子が輿から降りるのを手助けする。
そのまま従者を邸へと帰し、可那子は白哉に駆け寄った。
「どうしたの兄様、こんな時間に…」
「祝ってはくれぬのか?」
「え?」
唐突な言葉に思わず聞き返す可那子に、白哉は続ける。
「私の誕生日は、1月30日だと思っているのだが」
その言葉で今ここに白哉がいる理由を理解した可那子は、
「待って、プレゼント部屋にあるから」
そう言って駆け出そうとする。
「可那子」
しかし白哉はその腕を掴み、可那子を引き止めた。
「今年は…今私が一番欲しいと思っているものをくれぬか」
「兄様の、一番欲しいもの…?」
向き直った可那子に白哉が言うと、可那子は首を傾げながら白哉を見上げる。
「そろそろ“兄様”はやめないか。白哉、と…そなたにはそう呼んでほしい」
「白、哉…?」
「そうだ。…私は、そなたが欲しい」
まっすぐに告げられた、白哉の想い。
白哉を見上げていた可那子の瞳から、涙がこぼれ落ちた。
「可那子…」
白哉の手がそれをそっと拭う。
「すまぬ、迷惑だったか」
「違うの!」
言われ、可那子は慌てて首を振った。
「望んじゃいけないって、思ってたから…。朽木家は大貴族だし、いくらうちも貴族っていっても…」
「家など関係ない」
白哉は可那子の言葉を遮り、見上げる可那子の髪をそっとなでた。
「私はそなたに祝ってもらう時、家のことなど考えたことはない」
そこで可那子は気付き、そして思い出した。
1月30日に逢う白哉は、銀白風花紗も牽星箝も着けていなかったことを。
そしてそれは、今もそうだった。
「ただの男として、私はそなたが欲しい。それでは…駄目か?」
「――…っ」
白哉の言葉に、可那子はもう一度首を振った。
「あげるよ、あげるから――…あたしにも、白哉をちょうだい…?」
「――…もちろんだ」
白哉はやわらかく笑い、可那子を優しく抱きしめた。
可那子もまたしっかりと、その体に腕を回す。
そしてこれからも毎年繰り返すであろう言葉を、今年だけは少し特別な気持ちで口にするのだった。
「誕生日おめでとう、白哉――…」
(15,1,30)
2/2ページ