教師と生徒じゃなくなる日
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勧められたソファにはなんとなく座れず、そのソファの前、テーブルとの隙間にぺたりと座る可那子に、九影はミルクティーの入ったマグカップを手渡す。
ありがとございます、とそれを両手で包むように持ち、ひと口飲んでほっと息を吐く可那子を見てから、自分もコーヒーを飲みながら九影はソファに腰掛けた。
これが最後だとお願いしたのは自分なのに、九影もその意味を分かってここに連れて来てくれたと思うのに、それでも当然ながら可那子はとても緊張していた。
おまけに自分の斜め後ろに座っているため九影の表情をうかがい知ることもできず、何を話していいか分からない。
ただマグカップを口に運び、ミルクティーをちびちび飲むことしかできずにいた時、九影がその沈黙を破った。
「なあ、…なんで諦めなかった?」
その言葉で金縛りが解けた可那子は、振り返って九影を見上げ、答える。
「先生があたしを好きじゃなくても、それが好きをやめる理由にはならないから」
可那子の真っ直ぐな答えに、しかし九影は意地の悪い問いを返す。
「それが報われない恋で…今日で終わると分かっててもか」
「うん」
それでもまっすぐ答える可那子に、九影は呆れたようにため息をつく。
「馬鹿だな、お前は…俺なんかのために3年も無駄にしやがって」
しかしそれを聞いた可那子は、どうして?と小さく笑う。
「あたしの3年間はこの日のためにあったの。それにずっと先生のこと好きでいられたんだから、無駄な時間なんてなかったよ」
九影は言葉を失った。
「せんせ…?」
黙ってしまった九影を、可那子が不安げに呼ぶ。
「あーくそっ!」
九影は乱暴にカップをテーブルに置き頭をがりっと掻くと、
「やっぱお前、帰れ」
短く吐き捨てるように言った。
「…わり、言葉が足りねえな」
しかしショックを隠し切れない可那子の表情を見てすぐに何かに気付き、言葉を付け足す。
「今日だけ、一度だけのつもりなら…、俺のものにならねえなら…、帰れ」
可那子は目を見開いた。
「先生…それって」
「そのまんまの意味だ。深読みはいらねえ」
「うそ、でも…だって」
戸惑いを露わにする可那子に、九影は手を伸ばした。
「来いよ、――…可那子」
「、…っ」
すでに空になったカップを取り上げてから、可那子の体をソファの上へと抱き上げ、そして強く抱きしめる。
しかし可那子は、その九影の胸を押し返した。
「可那子…?」
「うそ、だよ…信じられない…」
100%諦めていた可那子にとって、九影の気持ちは寝耳に水どころの騒ぎじゃなく、嬉しいという感情より戸惑いの方が勝ってしまっていた。
無理もねえか、と思いながらも九影は、可那子を逃がすことなくその胸に抱きしめたまま口を開いた。
「いつだったか、お前ばっか見てる自分に気付いたんだよ。気付いた時はマジ焦ったけどな、教師と生徒だとか言ったのは俺だし、何よりそん時はもうお前ふっちまった後だったしよ」
可那子の体から少しずつ力が抜けていくのを感じながら、九影は続ける。
「でもま、だからこそほっときゃ忘れられる、最悪引きずっても卒業で幕引きと思ってたのによ…最後の最後んなってまだ好きとか言うし、そりゃ諦める気も失せるってもんだろ」
「先、生…」
力の緩められた腕の中から、可那子が顔を上げる。
その頬に触れた九影は、更に言葉を重ねた。
「なあ可那子、いいのか?今日で本当に終われんのか?だったら抱いてやれねえ、…離してやれなくなるからな」
困ったように笑う九影。
そんな九影を見つめる可那子の瞳には、涙がたまっていく。
「確かに、相手が自分をどう思ってようが関係ねえな。お前がもう諦めたと思ってても、俺はずっとお前が好きだったんだから」
次々こぼれ落ちる涙を拭ってやりながら九影は、すでに抑えきれなくなっている気持ちを狂おしげに紡いだ。
「俺はお前が好きだ、可那子。たぶんもうどうしようもねえほどにな。最後とか諦めるとかもう言わせねえから…だから、俺のもんになれ…!」
九影はそのまま、小さくうんと頷く可那子の唇に自らのそれを重ねた。
間髪入れず深くなる口づけに震える可那子の体を強く抱きしめ、更に深く口づける。
可那子が欲しかった。
切なげにこぼれる吐息、絡める舌の拙い動きにすら、九影は欲情した。
「…わり、もう止まんねえわ」
わずかに離れた唇でそう呟くと、また唇を重ねる。
何も考えられなかった。
可那子も、そして九影も。
ただ目の前の存在が愛しく、それ以外意識することができない。
九影は可那子の初めてを奪い、少しずつその体を昂め、そして絶頂へと導いた。
その後も何度も達しその都度甘く切なげに啼く可那子を求め続け、更に昂めていく。
そして――…
限界まで求められ続けた可那子は、いつしかその意識を手放していた――…。
限界を迎えそのまま眠りに落ちた可那子を、九影は寝室のベッドへと運んだ。
自分も横になり可那子の体をそっと抱き寄せた九影は、激しい自己嫌悪に陥っていた。
初めての女、気失うまで抱くとか…抑えきかなすぎんだろ、俺…。
悪いな、と小さく謝って九影は、可那子の髪に優しく口づけた。