教師と生徒じゃなくなる日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
九影がそこに行った時、可那子は噴水の前のベンチにこちらに背を向ける形で座っていた。
しばらくその小さな背中を見つめた後、九影は可那子の方へ歩み寄った。
「悪いな、待たせた」
その声に振り返った可那子は、やはり心の底から安心したように笑みをこぼした。
九影がここに来ないかもしれないということも覚悟の上だったのだろうと察することは容易だった。
「ありがと、先生…来てくれて嬉しい」
立ち上がりそう言って九影を見上げる可那子の頬が赤いのを見た九影は、ふと視線を下へと落とした。
そして、
「お前…いつからここにいた?」
手袋を外しながらそう訊き、赤いのを通り越して白くなりかけている可那子の手を包むように握りしめた。
春が近いとはいえ、まだまだ肌寒い日は続いている。
長時間外にいても平気な季節にはまだ少し早い。
「家にいても…、どこにいても落ち着かなくて、だから…」
冷えきった手に、九影の熱がじわりと伝わる。
突然の行為に心臓が早鐘のように打ち始め、可那子の答えはしどろもどろになった。
「たく、馬鹿だな」
九影は呆れたように言って、もう片方の手袋も外す。
「ほれ、これしとけ。ちっとはマシんなるだろ」
そしてそう言いながら、かじかんだ可那子の手に手袋をはめた。
九影の大きな手袋は、可那子の小さな手には余りある。
「小せえ手だな。落とすなよ?」
「っ、ありがと…」
九影の優しさに、胸の奥がきゅうと苦しくなった。
「さて、と…いつまでもここにいたら風邪ひいちまうな。飯でも食いに…」
九影が時計を見る。
しかし視線を戻した所で俯く可那子に気付き、その言葉は途中で途切れた。
可那子は俯いたまま、必死で言葉を絞り出した。
「ふたりきりに…、なりたい…」
可那子の申し出の意味を、最後という言葉の意味を、理解できない九影ではなかった。
小さく小さく息を吐いて九影はふ、と笑う。
そして可那子の頭にぽんと手を置いた。
「部屋…来るか?」