愛するために必要なこと
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その日は珍しく羽村のリクエストで濃いめのコーヒーを淹れ、ゆったりしたコーヒータイムをふたりで過ごした。
何を話すわけでもなく、羽村は手の中のスマホを持て余し気味に弄んでいた。
その時間にひと区切り付いたところで片付けのために立ち上がった可那子は、直後ソファに座っていた羽村に腕を掴まれそれを引き寄せられると同時に押し倒されていた。
「羽村、さん…?」
しかし羽村はそのまま何も言わず、わずかに眉間にしわを寄せる。
そんな羽村を見つめていた可那子はそっと腕を伸ばし、大丈夫ですよ、と目の前の体を抱き寄せた。
小さく息を吐いた羽村は片手で可那子を抱きしめたまま、もう片方の手で自身を取り出し可那子の脚を割る。
そして捲れたスカートの中のショーツを脇にずらし、準備されていないそこにすでに熱を持った屹立を捩じ込んだ。
「――…っ!」
痛みに歪む顔を見せまいと羽村にしがみつく可那子だったが、羽村は敢えて顔を上げその頬をなでる。
「全部入ったから、もう、平気…」
心配しないで、と笑ってみせると、羽村はもう一度可那子を抱きしめ律動を始めた。
このわずか数日で慣らされた体はすぐに反応し始めるが、それでもどこかもどかしく感じていた原因に気付いた可那子は羽村の胸に手を当てた。
「脱がせて、ください…」
体を起こした羽村はそれを一旦抜いて可那子の下着とスカートを一緒くたに脱がせると、シャツをたくしあげあらわになった胸に唇を寄せた。
「羽村さんも、脱いで…」
中途半端な状態のシャツを自ら脱ぎ捨て、可那子も羽村のシャツを脱がせる。
「…っ、」
再び羽村を受け入れながら、可那子は腕を伸ばし目の前の体を抱きしめた。
肌を重ねたかった。
肌を直接重ね、羽村の熱を感じたかった。
強く抱きしめられて、可那子は達する。
しかし当然羽村の動きは止まることはなく、体を起こし膝の裏を持ち上げ、可那子の奥まで激しく突き込みかき混ぜた。
そして可那子の腰を掴んだままその中で羽村が果てた時、いつもみたいに抱きしめてくれないのかと思う自分に可那子は気付いていた。
同時にもうひとつ気付く。
羽村が可那子の中で、まだ力を失っていないことに。
その時羽村に抱かれて初めて、可那子の頭にいつもはどうだったろうという疑問が浮かぶが、それを考える余裕は与えられなかった。
「ああぁ…っ!」
再び奥まで突き込まれ、可那子の背が反る。
「…っは、あ、羽村さ、ああ…っ!」
強い絶頂の波が何度も可那子を襲い、そのたびに声を上げ体を震わせる。
初めて見る羽村の激しさに翻弄されながら可那子は、今日が最後なのだと気付いていた。
しかし同時に、気付いていることを気付かれないために必死に涙をこらえていた。
気付かれたところで羽村が動揺するはずないことなど分かっていたけれど。
だとしてもこの気持ちだけは、どうあっても気付かれてはならないと。
今まで経験したことがないほどの快感を与えられ、可那子は飛びそうな意識をかろうじて繋ぎ止めていた。
しかし限界が近いのは羽村も同じようで、わずかに苦しげに眉間にしわを寄せた羽村はゆっくりと身を屈めた。
どちらからともなく強く、ただ強く抱きしめ合う。
そして――…
「…っ、羽村、さん…っ」
「――…っ!」
ふたりは共に果て、その背にきり、と爪を立てた可那子はそのまま意識を手放していた。
羽村はしばらくそのまま動きを止めて息を整え、その後静かに体を離した。
ぐったりと力なく横たわる体に布団をかけてやり、羽村はクリーニングに出されたあと壁に掛けられっぱなしだったスーツに袖を通す。
そしてもう一度可那子に近付くと、こらえきれずにこぼれ落ちた涙のあとをそっと拭い――…その唇に、静かに口づけを落とした。
ゆっくりと離れていくぬくもり。
遠ざかる足音。
玄関のドアが閉じられポストに鍵が落ちた時、可那子は駆け出していた。
駆け出して、玄関のドアノブを握りしめ、それ以上動くことを必死に踏みとどまる。
「――…っ!!」
その場に崩れ落ちると、膝に床に涙が散った。
行かないでと叫びたかった。
何も訊かなかったのは、訊いたらもっと知りたくなってしまうから。
だから訊かなかったのに…だから気付かれまいと隠したのに、こんな風に心を残していくなんて卑怯だと罵りたかった。
それがどれほど理不尽なことかということなど、分かりきっていたけれど。
――愛していた。
いつの間にかじゃない。
おそらくそれは、初めて出逢った時から。
何も知らない、ただ羽村と名乗ったその男を。