愛するために必要なこと
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深夜、コンビニの袋を下げた可那子はひと気のない道を歩いていた。
その時遠目に、ここを曲がればすぐにアパートに着くという曲がり角に入っていく人影を見る。
普段こんな時間にこの辺りで人に会うことは滅多にないが、人が住んでいないわけでもないので大して気には留めなかった。
そのまま何の気なしに角を曲がって数歩、
「――…っ!!」
突然背後から体を拘束され口を塞がれる。
「…誰の命令だ」
低くドスのきいた声で問われ、しかし全く身に覚えのない可那子は小さく首を振りながら、口を塞ぐ手にそっと触れた。
すると静かに手が離れ、しかしそれはそのまま可那子の細い首に添えられた。
大声を出そうものなら簡単にへし折られてしまうだろうということは、可那子にも十分理解できた。
「アパートが、そこなんです…」
目の前の寂れたアパートを指して可那子が言うと、少しの間の後体を拘束する力が緩められた。
可那子がそのまま歩き出すが、男が動く気配はない。
本当にこのアパートの住人なのだと言うことを証明しなければならないと気付いた可那子は真っ直ぐ自分の部屋に向かうと、ポケットから鍵を取り出しドアの鍵を開けた。
そのままドアを開けそっと振り返ると、男が歩き出すのが見えた。
疲れた足取り、薄暗い街灯に浮かび上がるスーツは汚れているように見える。
「あの!」
なぜかどうしても放っておけなくて、可那子は我知らず声をかけていた。
「お茶でも、どうですか?」
***
見ず知らずの男を深夜に部屋に誘い、本当にお茶を飲もうと思っていたわけでは当然なく、しかし
まずは男に風呂を勧め、昔の恋人が置いて行ったジャージと買い置きの下着を引っ張り出す。
こんなところで役に立つとはね、と苦笑しながらバスタオルとセットにして脱衣所に置いた。
男は羽村と名乗った。
可那子から男に対しての、唯一の問いへの答えだった。
嘘でも構わなかった。
呼びかけるための名前であれば何でも良かったから。
それ以外のことは訊いても答えないだろうと思ったし、訊こうと思わなかったから。
考える時間と場所が欲しかったという羽村に、可那子はここでよかったらどうぞとただ笑ってみせたのだった。
「あ、サイズ大丈夫そうですね」
風呂から出てきた羽村を見た可那子はよかった、と言いながらグラスにウィスキーを注ぐ。
水割りの方がよかったですかと訊く可那子から、いや、とロックのグラスを受け取り一息に飲み干した。
それを見た可那子は、そしたらこっちどうぞ、と隣の部屋への襖を開け羽村の背中を押した。
「今日はもう寝た方がいいです。くま、ひどいですよ」
と自分の目の下を指先でなぞってみせ、じゃあおやすみなさいと背を向ける。
しかし同時に腕を掴まれ、可那子の動きはその場で止められた。
「…っ、」
ゆっくりと振り返った可那子の視線は羽村のそれに瞬間的に絡め取られ、息を呑むと同時に全身が粟立つような感覚を覚える。
直後、あ、と思う間もなくその腕を引かれ組み敷かれていた。
「羽村さ、ん…っ」
唇をふさがれすぐさま差込まれる舌に口内を犯される。
わずかな抵抗もみせずに可那子は、それを受け入れそして応えた。
羽村の手がシャツをたくし上げ胸を弄り、しかしすぐにその手は可那子の部屋着のズボンを下着ごと脱がせる。
「ああ…っ!!」
羽村はそこにためらいなく自身を突き入れた。
そして間髪入れず律動する。
相手のことなど全く考えていない、独りよがりなセックスだった。
しかし咎める気など起きなかった。
可那子自身が驚くほどに気持ちよかったから。
「ん…っ、あ、あぁっ、――…っ!!」
それを証明するかのようにあっという間に達してしまう可那子。
しかし羽村の動きは止まらず、可那子は襲いくる快感にただ翻弄され続けた。
そうして何度目かの絶頂を迎えようという時、羽村の動きが速められる。
羽村も限界が近いのだと悟るが、しかし同時に羽村は可那子の体を強く強く、すがるように抱きしめた。
「ああ!!あっ、は、あぁ…ッ!!」
密着し、更に深く突き込まれる熱。
「っ、そのまま、中に…っ、あ、あぁ…っ!」
言われずともそうするつもりだったのか言葉が届いたのか、直後羽村は可那子の中に欲の塊を吐き出した。
羽村の全てを受け止めながら、可那子もまた達する。
羽村は強く可那子を抱きしめたまま動きを止めた。
なぜか涙があふれ、可那子はその背に静かに腕を回した。
どのくらいそうしていたのか、体を起こした羽村は可那子の頬をなで軽く後始末をし、また無遠慮に可那子をその胸に抱きしめながら体を横たえる。
そしてそのまま、久しぶりに訪れた深い眠りへと落ちて行った。
***
カーテンの隙間から差し込む陽射しに目を覚ました可那子の体は、いまだ羽村の腕の中だった。
数時間前のそれの影響か同じ体勢で寝ていたせいか、体がきしむ感覚に申し訳ないと思いながら静かに身動ぎする。
すると羽村の腕が緩み、横向きだった可那子の体の下からするりと腕が抜かれた。
「あ、起こしちゃいましたか」
すみません、と謝る可那子の体は仰向けに転がされる。
「羽村さ、あの…、――っ!」
最後まで問えないまま、体を開かれ突き入れられる。
膝の裏を持ち上げて腰を強く打ち付けられ、ただ声を上げて可那子はまた何度も達するのだった。
***
羽村が眉間にしわを寄せて何ごとか考えている時は決して近寄らず、その間に可那子は自分の仕事を片付けたりした。
一方の羽村は気付くと用意されているコーヒーや酒を飲み食事をし、朝でも昼でも関係なく気まぐれに可那子を抱いた。
夜から朝にかけてはベッドに入りセックスをして、その後は必ず可那子を抱きしめて眠った。
ふたりの奇妙でそれでいて濃密な時間は、不思議なほど穏やかに過ぎていった――。
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