運命
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年月は流れる。
人々の心などお構いなしに――当然のように白哉の心も置き去りのまま、百余年。
その年月ですら癒せない傷痕は、白哉を苦しめ続けた。
しかし白哉は可那子と出逢った当初こそ多少の動揺はあったものの、愛し合うようになってからは―可那子を失ってからも―周囲に自分の感情を悟られることなく隊長としての責務を果たし続けていた。
飽きることなく繰り返される日常。
この日もそんな日々のうちの一日だった。
「失礼します。新入隊士を連れてきました」
「入れ」
隊首室の外側からかけられた恋次の声に短く答える。
扉を開け入室した恋次に、真新しい死覇装を纏った隊士が続く。
「――!!」
その隊士を見た白哉は驚愕に目を見開いた。
「ほら、自己紹介」
「そなたの…名は?」
白哉の様子に気付かない恋次が隊士に声をかけるのと同時に、白哉も口を開く。
「隊長?」
不思議そうに恋次が白哉を見るが、白哉の目は恋次を見ない。
「本日付けで六番隊に配属されました――蔵本可那子、です」
そう名乗った死神―可那子―はにこりと微笑む。
「変わってないね…白哉」
「な…っお前、何言って…!」
恋次が焦って声を上げるが、白哉は無言のままゆっくり立ち上がった。
「…恋次」
可那子から目を離さないまま、白哉は恋次を呼ぶ。
「え?……、は」
自分を呼んだ白哉の様子を見て、事情は分からないが何かを察した恋次は、それ以上は何も言わずぺこりと頭を下げ隊首室から下がった。
部屋に広がる静けさ。
可那子の体は白哉の胸に包まれていた。
この腕の中の存在が、自分が愛した可那子なのかと確かめる必要などなかった。
あの日失ってしまった、何より大切で…忘れてしまうことすら叶わなかった存在。
「可那子…!」
狂おしげにその名を呼ぶ白哉。
「うん、白哉…やっと、逢いに来れたよ…」
可那子もそれに答え、そして白哉を見上げる。
「そうか、そなた記憶が…」
そこで白哉は小さく感じていた違和感の正体を知る。
通常、魂魄には記憶は残らないと言われているからだ。
白哉から声をかけるならまだしも、魂魄となった可那子から、というのは普通なら考えられない。
しかし白哉にとって目の前の少女が、失ってなお焦がれ捜し続けた存在だということは疑いようのない事実だった。
感覚だけに頼るなど自分らしくないとも思うのだが、やはりこればかりはどうしようもなく…事実だった。
その夜、お互いの存在が夢ではないのだと改めて確かめ合った後、白哉の腕の中で可那子はゆっくりと話し始めた。
――初めはいつもぼんやりしてるの。
けれどそのうちはっきり見えてきて…前世を憶えてる前世の自分がいるのに気付いた時、自分が転生してるって信じることができた。
産まれてくることさえできなかったり、天寿を全うしたり…随分波乱万丈だったんだよ。
そして今回は霊力が強すぎて…16歳の時、ホロウに。
白哉と出逢った時と同じ年って…これも運命だったのかな。
その記憶の中にはいつも必ず同じ男の人がいたの。
あたしをずっと呼んでくれてるみたいで…だけどあたしはいつもそれに答えられなくて。
全部思い出したのは、魂魄になって尸魂界に来てから。
流魂街でホロウが出て、護廷隊が出動した時。
六番隊の先頭に立つ白哉を見た時…だったよ。
一番古い記憶。
そして愛しい記憶…。
その時あたしはようやく、あたし自身の魂の行き着く先を知ったの。
白哉があたしを憶えているか、なんてどうでもよかった。
ただ、魂が望む場所に還りたかっただけ。
望む場所――白哉の、そばに…!
頬を伝う涙ごと、白哉は可那子を強く抱きしめた。
「死神なのに…人間のあたしを愛してくれたのは…白哉だったよね?」
「…ああ」
「死神とかホロウとか…教えてくれたのも、白哉だったよね?」
「そうだな」
「あたしをずっと…ずっと呼んでくれてたのも…白哉だったよね…?」
「ああ、そうだ…」
今のお互いにとって目の前の存在が全てなのは分かりきっていたが、それでもこぼれてしまう可那子の言葉に白哉は静かに答える。
「ねえ、白哉…?」
可那子は白哉を見上げた。
返事の代わりに見つめ返す白哉の瞳はどこまでも優しく、可那子は安心したように笑んでから言葉を紡いだ。
「あたし、ずっとここに…白哉のそばに、いていいんだよね…?」
「それはする必要のない質問だ」
白哉はもう一度可那子を抱きしめた。
「もう二度と、私はそなたを離さぬからな。――愛している、可那子…」
抱きしめる腕の強さ、そしてあたたかさ。
頬を濡らす涙はもう、哀しみの色には染まらない。
「ありがと、白哉…あたしも、愛してる…」
可那子もまた、白哉を強く抱きしめた――。